社会福祉法人の合併・事業譲渡におけるデューデリジェンス(DD)解説5|資金収支計算書から見抜く「法人の真価」:拠点分析とキャッシュフロー指標で読み解く合併の成否

はじめに:表面的な「黒字」に騙されない経営判断を

社会福祉法人の合併や事業譲渡において、最も避けなければならないのは、統合後に「こんなはずではなかった」と後悔することです。

相手法人が提出する決算書が「全体で黒字」であっても、その中身を詳細に分析しなければ、将来の経営を揺るがすリスクを見逃してしまいます。

今回は、財務調査報告書(デューデリジェンス報告書以下DD)の中でも特に実務的で重要な3つの指標である、

・拠点別分析
・資金収支差額率 
・現預金支出比率 

に焦点を当て、経営者がどこに注目すべきかを解説します。


DDにおける重要指標①「各拠点の収益性」:不採算部門の「構造」を見極める

法人の全体収支が安定していても、拠点ごとの数字を並べてみると、全く異なる景色が見えてくることがあります。

POINT財務調査(DD)では、本部、特養、デイサービス、ケアハウスといった「拠点区分」ごとの収益性を徹底的に分析します。

拠点別分析のチェックポイント

ここで重要なのは、単に「赤字か黒字か」だけではありません。

その赤字が「一時的なもの」か「構造的なもの」かを見極めることです。

具体的には、以下のような点を確認します。

◾️人件費率のバラつき: 特定の拠点だけ人件費率が異常に高い場合、配置基準以上の過剰な人員配置や、現場のマネジメント不足が疑われます。

◾️共通費の配賦
: 本部費用が各拠点に適切に振り分けられているか。本部のスリム化によって改善可能な赤字なのかを確認します。

合併・譲渡における意義

もし、特定の拠点が構造的な赤字を垂れ流しており、改善の見込みが立たない場合、その拠点を引き継ぐことは自法人の体力を奪うことに直結します。

「全体で帳尻が合っているから」と見過ごさず、拠点ごとの採算性を把握することで、不採算事業の縮小や撤退、あるいは経営改善の具体的な「処方箋」を統合前に用意することが可能になります。


DDにおける重要指標②「事業活動資金収支差額率」:本業の「現金創出力」を測る

次に注目すべきは、資金収支計算書から導き出される「事業活動資金収支差額率」です。

POINT【事業活動資金収支差額率】…本業のサービス提供を通じて、売上に対してどれくらいの「現金」が手元に残ったかを示す指標です。

なぜ「利益」ではなく「差額率」なのか

損益計算書上の「利益」には、減価償却費などの「実際にはお金が出ていかない費用」が含まれています。

一方、この「資金収支差額率」は、まさに法人の「キャッシュを稼ぐ力」を表します。

目安としての基準: 社会福祉法人の場合、この比率が10%程度あれば健全とされますが、もし5%を切っていたり、マイナスであったりする場合、その事業は「動けば動くほど現金が減っている」状態です。

合併・譲渡における意義

借入金の返済や将来の施設修繕は、すべてこの「事業活動によるキャッシュ」から支払われます。

差額率が低い法人を譲り受けるということは、自法人のキャッシュフローを補填し続けなければならない「持ち出し」のリスクを背負うことを意味します。
むらき

財務調査を通じてこの比率を正しく算出することは、新法人が自立して運営していけるかを確認するための、極めて重要な「生存確認」なのです。


DDにおける重要指標③「現預金対事業活動支出比率」:不測の事態への「防衛力」

最後に、法人の短期的な安全性を象徴する「現預金対事業活動支出比率」を確認します。

POINT【現預金対事業活動支出比率】…手元にある現預金が、毎月の運営支出(人件費や事業費)の何ヶ月分に相当するかを示すものです。

「手元流動性」の重要性

社会福祉法人は、介護報酬の入金まで約2ヶ月のタイムラグがあります。また、突発的な設備の故障や、感染症による利用控えなどのリスクが常にあります。

実務でのチェック一般的には「月の収入の2〜3ヶ月分」の現預金が手元にあることが望ましいとされます。もしこれが「1ヶ月分未満」であれば、毎月の給与支払いが綱渡り状態であることを示しています。

合併・譲渡における意義

この比率が極端に低い法人との統合は、合併した翌月から「資金ショートの回避」に奔走することを意味します。
相手の通帳残高が1億円あっても、毎月の支出が1億円であれば、それは余裕があるとは言えません。

財務調査報告書でこの比率を確認することで、統合直後にどれだけの「運転資金の輸血」が必要になるかを事前に把握し、銀行との融資交渉をあらかじめ進めておくといった、先手を打った経営が可能になります。


まとめ:数字の裏にある「経営の癖」を掴む

今回ご紹介した3つの指標は、単なる統計データではありません。それらは、相手法人がこれまでどのような「癖」を持って経営してきたかを映し出す鏡です。

POINT・拠点別分析 どこに課題があるかを知る。
・資金収支差額率 継続できる実力があるかを知る。
・現預金支出比率 今すぐ倒れるリスクがないかを知る。

デューデリジェンスを通じてこれらの数字を客観的に把握することは、相手を疑うことではなく、地域福祉の拠点を末永く守り抜くための、経営者としての「誠実な準備」なのです。

むらき

確かなデータに基づいた決断こそが、利用者、職員、そして地域社会の未来を明るいものにします。


本記事は、著者が一般的な社会福祉法人の財務分析の視点を解説したものです。実際の拠点分析や比率の判定には、多角的な専門知識が必要となりますので、必ず公認会計士等の専門家による調査を実施してください。

▼DDについてもっと詳しく知りたい方は以下の記事もお読みいただけます。

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村木 宏成

福祉の世界にたずさわり、さまざまな種別の福祉事業に取り組んできました。 生産年齢人口の急減に伴う「供給制約」、出生数減少に伴う保育需要の減少、後期高齢者数のピークアウトに伴う「需要消失」、そうした課題が、それぞれの地域ごとに並列していく時代がきています。これからの社会福祉法人は、それぞれの地域での福祉サービスを継続していくためにも、法人の合併・事業譲渡・社会福祉事業の再編統合なども視野に入れていかなければなりません。 社会福祉事業を経営するあなたの事業の悩み、問題、課題の最適解を一緒に考えていきましょう。 趣味は神社仏閣巡り 大宮の氷川神社、成田山新勝寺には長年通い続けています。

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