入所施設の食費・居住費の扱いについて|介護報酬の決め方問題2

令和6年介護報酬改定の決め方問題:入所施設の食費、居住費のこと


▼前回の記事はこちら

上記の記事では報酬改定の議論に、

介護事業経営実態調査で相対的に収支差がでていれば、報酬を下げられ、収支差がなくなれば、報酬を上げる、というやり方で進められ、報酬適正利潤や再生産コストに関する議論が全くない

ということを書きました。

今回の報酬改定では、主に入所系施設の食費、居住費のことに焦点を当てた話をしたいと思います。

介護報酬には、「改定率の外枠」という考え方がある

「改定率の外枠とは」

現在の3種類の処遇改善加算を統合し、令和6年度改定で「介護職員等処遇改善加算」を新設。新加算取得や今より単位数が高い上位区分の取得によって、増収となる介護施設・事業所が一定数あると見込み、このような公費負担のない増収見込による“増収効果”を「改定率の外枠」と表現している。

全国社会福祉法人経営者協議会「令和6年度都道府県セミナー(前期)資料」より抜粋

さらに、こちらの2枚目に「改定率の外枠」という記述と考え方があります。

今回の介護報酬の改定では、

改定率は全体として+1.59%でした。
そこに改定率の外枠+0.45%相当の改定が見込まれ、合わせて+2.04%相当となる

というのが厚労省の主張でした。

「改定率の外枠」である入所施設の食費、居住費の基準費用額について

令和6年の報酬改定にあたり、基準費用額の居住費は一日あたり60円引き上げられ、食費は据え置きだった

その改定率の外枠として、入所施設の食費、居住費の基準費用額について、今回の報酬改定では、居住費のみ一日あたり60円引き上げられました。が、食費は据え置き、となりました。

(※「基準費用額」や「負担段階」、「負担限度額」、「補足給付」の説明は社会福祉法人経営者の皆さんはよくよく知っていると思いますので省略します。)

今回の報酬改定にあたった政策当局者のお話をお聞きすると、「居住費」分の算定根拠となる家計調査では、上記リンク資料のとおり、令和元年に比べて上昇が見られるとのことで、一日60円上がりました。

しかし、食費については、その政策当局者の話によると「食費の上昇がみられるエビデンスがなかった」とのことで、見送りとなりました。

私たちの法人施設では、令和5年、令和6年と続けて給食委託費の値上げをお願いされてきました。

さらに令和6年の新米から米価が約1.6倍に上がると卸業者からも連絡がありました。1.6倍です!

それに伴い、第4段階以上の利用者の皆様にはその上昇分の値上げをお願いしてきました。
しかし、特養において負担段階が第4段階以上の方はかなり少数です。

また下記のように2023年平均と最新2024年11月分のCPI(前年同月比2.9%増)を見ても、2023年の3%台からは少し落ち着いてきたものの、2%台後半で推移しています。

物価上昇分の基準費用額への転嫁について、柔軟化や自動スライド化の議論を!

今後3年間、こうした物価上昇・インフレのなかで、そのコストを負担していくのは、介護施設になります。
もしくは、値上げに同意いただいた第4段階以上の一部の利用者の皆さんです。

一定のルールを設けて、基準費用額への転嫁の柔軟化を

私たちは普通に生活していたら、電気代、ガス代、ガソリン代、食材料代が上がれば当然その分支払います。
(でなければ生活できません)

これと同じように、基準費用額においても、一定のルールを設けて、その上昇分への食費・居住費へ転嫁を柔軟に認めるような、柔軟化・自由化の議論が必要ではないでしょうか。

または消費税税率引き上げに伴う臨時報酬改定を参考に

2019年10月に消費税税率の引き上げが行われました。
その際は消費税増加分を賄うための臨時の報酬改定が行われました。

「消費税の税率引き上げに伴う臨時報酬改定について」
我々の介護保険サービスは消費税は非課税です。介護サービス事業所・介護施設は消費税が税率が引き上げられると、衛生用品等など備品購入で支払った消費税も当然増えますが、介護報酬は公定価格として決まっていますので、それを利用者に転嫁することはできません。
その分を2019年の消費税引き上げに合わせて、臨時報酬改定として措置したのです。

村木宏成にて追記

これと同じように、物価上昇などインフレ局面において、基準費用額も自動的にスライドさせる(もちろんCPIなどが下がれば下げられる)ような仕組みを議論することも必要ではないでしょうか。

私としては、「受益者負担の原則」からも、こうした議論が必要だと思っています。

村木 宏成

福祉の世界にたずさわり、さまざまな種別の福祉事業に取り組んできました。 生産年齢人口の急減に伴う「供給制約」、出生数減少に伴う保育需要の減少、後期高齢者数のピークアウトに伴う「需要消失」、そうした課題が、それぞれの地域ごとに並列していく時代がきています。これからの社会福祉法人は、それぞれの地域での福祉サービスを継続していくためにも、法人の合併・事業譲渡・社会福祉事業の再編統合なども視野に入れていかなければなりません。 社会福祉事業を経営するあなたの事業の悩み、問題、課題の最適解を一緒に考えていきましょう。 趣味は神社仏閣巡り 大宮の氷川神社、成田山新勝寺には長年通い続けています。

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