社会福祉法人の合併・事業譲渡におけるデューデリジェンス(DD)解説1|社会福祉法人の持続可能な経営を守る「組織の健康診断」

はじめに:社会福祉法人の「継承」と「統合」になぜDDが必要なのか?

現在、社会福祉業界は大きな転換期を迎えています。

人手不足やインフレ、少子化による人口減少による需要縮小などを背景に、事業を継続していくためには、法人の合併や事業の譲渡などを検討していく必要がでてきています。

こうした「法人や事業のバトンタッチ」の際、最も避けなければならないのは、引き継いだ後に

「実は多額の未払賃金があった」
「老朽化した施設の修繕に莫大な費用がかかることが分かった」

といった、経営を揺るがすような事態です。

法人の「真の姿」を明らかにし、利用者へのサービスを継続しながら、職員の雇用を守り抜く。

そのための最も重要なステップが、財務デューデリジェンス(Financial Due Diligence:FDD)です。

今回は、社会福祉法人経営者が知っておくべきデューデリジェンス(DD)の目的と必要性について、分かりやすく解説します。


財務デューデリジェンス(FDD)とは?:経営者が知っておくべき「中身の確認」

POINT財務デューデリジェンスとは、一言で言えば「公認会計士等の専門家による法人の精密検査」です。

通常、法人は社会福祉法人会計基準に基づき、毎年度ごとに計算書類を作成し、所轄庁に報告しています。しかし、その書類(帳簿上の数字)だけでは見えてこない「実態」が必ず存在します。

公認会計士などの専門家が、数日から数週間かけて法人の過去数年分の通帳、領収書、国保連や利用者への請求書等の帳票関係や、雇用契約書、理事会議事録などを精査し、

「この法人の決算書等は正確であるのか」
「将来のリスクはどこにあるのか」

をレポートにまとめます。

これは、相手法人を疑うためのものではなく、公正な条件で統合を進めるための「共通の物差し」を作る作業なのです。


目的①:法人の「真の財産」を正しく把握する(実態純資産の算定)

社会福祉法人は非営利組織ですが、統合や事業譲渡の際には、その法人の財産価値を評価する必要があります。

POINTここで重要になるのが、帳簿上の数字ではなく、今の価値に直した「実態純資産」です。

例えば、以下のようなケースを精査します。

未収金の回収可能性: 介護報酬や利用料の未収金の中に、実は回収の見込みがないものが含まれていないか。

固定資産の評価: 土地や建物の価値が、帳簿に載っている金額と現在の時価で大きく乖離していないか。

積立金の確認: 将来の施設改修や備品購入のための積立金が、適切に資金として確保されているか。
むらき

私自身も、DDではありませんが、会計監査人による会計監査を実施した経験から、未収金の一部が実は数年前のものであり、ほぼほぼ回収の見込みがないものがそのまま計上され続けていた、ということがあったりします。

「資産として計上していたものが、実は回収できそうにないものだった」という事態を防ぐために、資産の「実在性」と「網羅性」を徹底的に確認します。


目的②:補助金や一時金に惑わされない「稼ぐ力」を見極める(正常収益力の分析)

法人の経営状態を見る際、単年度の黒字・赤字だけで判断するのは危険です。FDDでは、その法人が将来にわたって自律的に経営を続けていける能力があるか、つまり「正常収益力」を分析します。

具体的には、損益計算書から以下のような「特殊な要因」を除外して考えます。

一時的な収入の除外: たまたま受けた多額の寄付金や、固定資産の売却益などは、来年以降は期待できません。

補助金の精査: 国や自治体からの補助金が、今後も継続して受けられるものか、それとも特定の事業に対する一回限りのものか。

コストの適正化: 役員報酬や特定の業者への委託料が、業界水準と比べて著しく高くないか。
むらき

これらを整理することで、「この事業所を今のまま運営して、本当に職員の給与をはじめ運営に必要な費用を払い続けられるのか」という現実的な見通しを立てることができます。


目的③:将来の経営を揺るがす「隠れた負債」を早期発見する

社会福祉法人の統合において、最も慎重に調査すべきなのが「潜在的なリスク(簿外負債)」です。

帳簿には載っていないけれど、将来的に支払義務が生じる可能性があるものです。

特に社会福祉法人で問題になりやすいのが以下の項目です。

◾️未払残業代のリスク: 宿直手当や残業代の計算方法が、近年の労働法制(働き方改革関連法など)に適合していない場合、過去に遡って多額の支払いを求められるリスクがあります。

◾️退職給付債務の不足: 職員が将来退職する際に支払うべき退職金が、制度(退職共済など)に則って十分に積み立てられているか。

◾️行政処分の可能性: 運営基準の違反等により、将来的に介護報酬の返還を命じられたり、事業停止になったりするリスクはないか。
むらき

これらのリスクを事前に把握しておくことで、統合の条件を修正したり、あらかじめ対策を講じたりすることが可能になります。


なぜ今、法人合併や事業譲渡にDDが必要なのか?

相手の法人とは、「長年付き合いのある法人同士だから、調査までは必要ない」という声を聞くこともあります。

POINTしかし、その法人や事業を譲受した経営者には「善管注意義務(管理者としての注意を払う義務)」があります。

十分な調査を行わずに問題のある法人を譲り受け、その結果、自法人の利用者のケアが疎かになったり、経営が悪化して職員を解雇せざるを得なくなったりした場合、理事長をはじめとする役員の責任が問われる可能性もあります。

デューデリジェンスを行うことは、以下の3つを守ることに直結します。

1.利用者の安心: 経営が安定することで、安定した福祉サービスが継続されます。

2.職員の雇用: 財務リスクを事前に把握・対処することで、職員が安心して働ける環境を維持できます。

3.法人のガバナンス: 客観的なデータに基づいた意思決定を行うことで、外部に対する透明性と信頼性を確保できます。

まとめ:DDは法人の理念と利用者の安心を守るための「一歩」

財務デューデリジェンスは、単なる数字の計算ではありません。

それは、その法人が培ってきた理念を次世代へ繋ぎ、地域福祉の拠点を守り抜くための、経営者としての「責任ある誠実な行動」です。

「あの法人(あの事業所)は大丈夫だろう」と過信するのではなく、客観的な数字と事実に基づき、リスクを正しく認識していくことが大切です。


本記事は、一般的な社会福祉法人における統合・譲渡の際の注意点を解説したものです。具体的な案件については、必ず公認会計士や弁護士などの専門家に相談し、個別状況に応じた調査を実施してください。

社会福祉法人の経営や合併・事業譲渡でお悩みの方へ

「何から手をつければいいのか分からない…」
「判断の材料がほしい」

そんなお悩みに、専門的な視点からアドバイスいたします。
無料相談も承っておりますので、まずはお気軽に お問い合わせ ください!

村木 宏成

福祉の世界にたずさわり、さまざまな種別の福祉事業に取り組んできました。 生産年齢人口の急減に伴う「供給制約」、出生数減少に伴う保育需要の減少、後期高齢者数のピークアウトに伴う「需要消失」、そうした課題が、それぞれの地域ごとに並列していく時代がきています。これからの社会福祉法人は、それぞれの地域での福祉サービスを継続していくためにも、法人の合併・事業譲渡・社会福祉事業の再編統合なども視野に入れていかなければなりません。 社会福祉事業を経営するあなたの事業の悩み、問題、課題の最適解を一緒に考えていきましょう。 趣味は神社仏閣巡り 大宮の氷川神社、成田山新勝寺には長年通い続けています。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

お問い合わせフォーム