社会福祉法人の合併・事業譲渡におけるデューデリジェンス(DD)解説2|デューデリジェンスの進め方と実務プロセス

はじめに:DDの「流れ」を知ることは、「実態」を知る第一歩

社会福祉法人の合併や事業譲渡の話が持ち上がった際、譲受する側の理事長や経営者の皆様が最も不安に感じること。それは、

「その法人(またはその事業所)の実態とはどんなものなのだろうか?」

ということではないでしょうか。

「デューデリジェンス(DD)」と聞くと、何か特別な、あるいは厳しい監査のようなイメージを持たれるかもしれません。しかし、その本質は、これから「合併・統合」になろうとする相手、つまりは「大切な事業」を引き受けるために相手の健康状態を、正しく理解するためのプロセスです。

今回は、

この記事の内容・DD(デューデリジェンス)の主な流れ、実務で行われること
・それぞれのステップが合併・譲渡の成功に欠かせない理由

を解説します。


ステップ1:資料依頼と事前分析 ― 「過去の軌跡」からリスクを予見する

POINTDDのプロセスは、まず専門家(公認会計士など)から膨大な帳票関係を精査するところから始まります。

実務で行われること

精査される資料は決算書だけではありません。

総勘定元帳、理事会の議事録、就業規則、賃金台帳、さらには行政からの指導監査結果通知書まで、過去3〜5年分のあらゆる資料を提出します。

専門家はこれらの資料を読み込み、「数字の異常な動き」や「制度上の不備」をあらかじめ抽出します。

なぜ合併・譲渡において必要なのか?

社会福祉法人は、公的な資金で運営されているため、過去の「会計処理」や「コンプライアンス上」のミスが、将来の「補助金返還」や「行政処分」に直結します。

合併(譲受)してから「実は3年前の加算請求に誤りがあった」と分かっても、その返還義務を負うのは新法人側となります。

ステップ2:現地調査(オンサイト) ― 現場に隠れた「真実」を見極める

POINT資料の確認が終わると、次は実際に法人や施設へ専門家が赴く「現地調査」も行われます。

実務で行われること

現地調査では、提出された資料と現物の整合性を確認します。

例えば、

・通帳の残高と帳簿が一致しているか
・固定資産台帳に載っている設備は、実際に稼働しているか

といった点です。

また、施設の老朽化具合や、現場の職員の働き方も観察の対象となることもあります。

なぜ合併・譲渡において必要なのか?

書類上は「資産」として計上されていても、実際には壊れて使えない設備や、修繕が必要な建物であれば、それは将来の「多額の出費」を意味します。

事業譲渡において、譲受側が懸念するのは「想定外の追加投資」です。現地を直接見ることで、建物や設備がどんな状態か、譲渡対価が適切か、引き継いだ後にどれだけの修繕費が必要かを正しく判断できるようになります。


ステップ3:経営層へのインタビュー ― 「数字に表れない経営の実態」を聴く

POINT資料や現場の確認と並行して、非常に重要なのが経営層や事務長への「ヒアリング」も行われます。

実務で行われること

「なぜこの時期に借入を増やしたのか」
「将来の事業計画はどうなっているか」
「職員の離職率が高い理由は何か」

上記は一例ですが、数字だけでは読み取れない「経営判断・決断の背景等」を直接聞き取ります。

なぜ合併・譲渡において必要なのか?

社会福祉法人の経営は、理事長の理念や地域の人間関係に深く依存していることが少なくありません。 合併後に、相手方の独特な経営手法や、表面化していない労使トラブルが原因で、組織がバラバラになってしまうケースも多々あります。


社会福祉事業はきわめて「労働集約的」な事業であり、人を確保すること、組織としてまとまらないことには、なかなか事業を継続することはできません。

インタビューを通じて「経営文化の相違」や「潜在的な火種」を把握することは、善管注意義務(管理者としての責任)を果たす上で不可欠なプロセスです。

ステップ4:実態バランスシートと正常収益力の算定 ― 「本当の価値」を確定させる

POINTこれまでにおける調査結果を集約し、専門家が「実態に基づいた数字」を弾き出します

実務で行われること

このステップで行われるのは「実態バランスシート(B/S)」の作成と、「正常収益力(P/L)」の分析です。

簿外債務(未払残業代や退職金の不足など)を反映させ、一時的な収益を除いた「本来の稼ぐ力」を算出します。

なぜ合併・譲渡において必要なのか?

社会福祉法人の合併や、仮に譲渡対価を決める際、客観的な「物差し」がなければ、不当に高い(または低い)価格で譲渡契約等を結んでしまうリスクがあります。

特に、「職員の雇用を守りながら、法人の債務等を把握して、事業継続していけるのか」ということは、実態の数字がなければ不可能です。

むらき

こうした「物差し」を持つことで、理事会や評議員会、また行政との協議でも、根拠と論理的な説明が可能になります。

(※現行法では、合併・事業譲渡は評議員会の議決事項では必ずしもありません。しかし、評議員会にもしっかりとした根拠をもって説明することが求められるでしょう)


ステップ5:報告書の作成と条件交渉への反映 ― 最終決断の「根拠」を持つ

POINT最後に、すべての調査結果が「財務調査報告書」としてまとめられます。

実務で行われること

報告書には、発見されたリスク事項(ディール・ブレイカーと呼ばれる致命的な欠陥や、改善すべき課題)が明記されます。

報告書には、発見されたリスク事項(ディール・ブレイカーと呼ばれる致命的な欠陥や、改善すべき課題)が明記されます。これを元に、最終的な契約条件(価格の調整や、リスクが発覚した場合の補償条項など含めて)を話し合います。

なぜ合併・譲渡において必要なのか?

合併・譲渡は、契約書に判を突いて終わりではありません。
調査で見つかった課題は、そのまま「統合後の経営改善リスト」になります。

「どこにリスクがあるか分かった上で引き受ける」のと、「知らずに引き受ける」のでは、経営の安定性に雲泥の差が出ます。

DD報告書は、新しい法人・事業所を継続させるための事業計画書に近いものといえます。


まとめ:DDは相手への「敬意」と、利用者への「責任」

デューデリジェンスのプロセスは、確かに手間と時間がかかるものです。しかし、この一連のプロセスを丁寧に進めることは、決して相手を疑うことではありません。

POINTむしろ、相手法人が築いてきた歴史を正しく理解し、引き継いだ後の利用者様の生活と職員の人生に責任を持つという、経営者としての責任の表れだと思っています。

合併や事業譲渡という大きな決断をされる際は、この「調査のプロセス」を経営の最優先事項として参考になさってみてください。それが、地域に必要とされる福祉事業を継続する道の一つなのではないでしょうか。


本記事は、著者が一般的な社会福祉法人におけるDDの実務プロセスを想定したものとして書いています。具体的な調査範囲やスケジュールについては、公認会計士等の専門家と相談の上、個別の状況に合わせて進めてください。

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村木 宏成

福祉の世界にたずさわり、さまざまな種別の福祉事業に取り組んできました。 生産年齢人口の急減に伴う「供給制約」、出生数減少に伴う保育需要の減少、後期高齢者数のピークアウトに伴う「需要消失」、そうした課題が、それぞれの地域ごとに並列していく時代がきています。これからの社会福祉法人は、それぞれの地域での福祉サービスを継続していくためにも、法人の合併・事業譲渡・社会福祉事業の再編統合なども視野に入れていかなければなりません。 社会福祉事業を経営するあなたの事業の悩み、問題、課題の最適解を一緒に考えていきましょう。 趣味は神社仏閣巡り 大宮の氷川神社、成田山新勝寺には長年通い続けています。

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