
はじめに:DDの「流れ」を知ることは、「実態」を知る第一歩
社会福祉法人の合併や事業譲渡の話が持ち上がった際、譲受する側の理事長や経営者の皆様が最も不安に感じること。それは、
ということではないでしょうか。
「デューデリジェンス(DD)」と聞くと、何か特別な、あるいは厳しい監査のようなイメージを持たれるかもしれません。しかし、その本質は、これから「合併・統合」になろうとする相手、つまりは「大切な事業」を引き受けるために相手の健康状態を、正しく理解するためのプロセスです。
今回は、
・それぞれのステップが合併・譲渡の成功に欠かせない理由
を解説します。
【関連記事】
▶︎DDをわかりやすく解説①:DD(デューデリジェンス)とは?
▶︎DDをわかりやすく解説③:貸借対照表(B/S)の読み解き方
▶︎DDをわかりやすく解説④:事業活動計算書(P/L)分析
▶︎DDをわかりやすく解説⑤:資金収支計算書から見抜く「法人の真価」
ステップ1:資料依頼と事前分析 ― 「過去の軌跡」からリスクを予見する

実務で行われること
精査される資料は決算書だけではありません。
専門家はこれらの資料を読み込み、「数字の異常な動き」や「制度上の不備」をあらかじめ抽出します。
なぜ合併・譲渡において必要なのか?
社会福祉法人は、公的な資金で運営されているため、過去の「会計処理」や「コンプライアンス上」のミスが、将来の「補助金返還」や「行政処分」に直結します。
ステップ2:現地調査(オンサイト) ― 現場に隠れた「真実」を見極める
実務で行われること
現地調査では、提出された資料と現物の整合性を確認します。
例えば、
・固定資産台帳に載っている設備は、実際に稼働しているか
といった点です。
また、施設の老朽化具合や、現場の職員の働き方も観察の対象となることもあります。
なぜ合併・譲渡において必要なのか?
書類上は「資産」として計上されていても、実際には壊れて使えない設備や、修繕が必要な建物であれば、それは将来の「多額の出費」を意味します。
事業譲渡において、譲受側が懸念するのは「想定外の追加投資」です。現地を直接見ることで、建物や設備がどんな状態か、譲渡対価が適切か、引き継いだ後にどれだけの修繕費が必要かを正しく判断できるようになります。
ステップ3:経営層へのインタビュー ― 「数字に表れない経営の実態」を聴く

実務で行われること
「将来の事業計画はどうなっているか」
「職員の離職率が高い理由は何か」
上記は一例ですが、数字だけでは読み取れない「経営判断・決断の背景等」を直接聞き取ります。
なぜ合併・譲渡において必要なのか?
社会福祉法人の経営は、理事長の理念や地域の人間関係に深く依存していることが少なくありません。 合併後に、相手方の独特な経営手法や、表面化していない労使トラブルが原因で、組織がバラバラになってしまうケースも多々あります。
社会福祉事業はきわめて「労働集約的」な事業であり、人を確保すること、組織としてまとまらないことには、なかなか事業を継続することはできません。
ステップ4:実態バランスシートと正常収益力の算定 ― 「本当の価値」を確定させる
実務で行われること
このステップで行われるのは「実態バランスシート(B/S)」の作成と、「正常収益力(P/L)」の分析です。
簿外債務(未払残業代や退職金の不足など)を反映させ、一時的な収益を除いた「本来の稼ぐ力」を算出します。
なぜ合併・譲渡において必要なのか?
社会福祉法人の合併や、仮に譲渡対価を決める際、客観的な「物差し」がなければ、不当に高い(または低い)価格で譲渡契約等を結んでしまうリスクがあります。
特に、「職員の雇用を守りながら、法人の債務等を把握して、事業継続していけるのか」ということは、実態の数字がなければ不可能です。
こうした「物差し」を持つことで、理事会や評議員会、また行政との協議でも、根拠と論理的な説明が可能になります。
(※現行法では、合併・事業譲渡は評議員会の議決事項では必ずしもありません。しかし、評議員会にもしっかりとした根拠をもって説明することが求められるでしょう)
ステップ5:報告書の作成と条件交渉への反映 ― 最終決断の「根拠」を持つ

実務で行われること
報告書には、発見されたリスク事項(ディール・ブレイカーと呼ばれる致命的な欠陥や、改善すべき課題)が明記されます。これを元に、最終的な契約条件(価格の調整や、リスクが発覚した場合の補償条項など含めて)を話し合います。
なぜ合併・譲渡において必要なのか?
合併・譲渡は、契約書に判を突いて終わりではありません。
調査で見つかった課題は、そのまま「統合後の経営改善リスト」になります。
「どこにリスクがあるか分かった上で引き受ける」のと、「知らずに引き受ける」のでは、経営の安定性に雲泥の差が出ます。
DD報告書は、新しい法人・事業所を継続させるための事業計画書に近いものといえます。
まとめ:DDは相手への「敬意」と、利用者への「責任」

デューデリジェンスのプロセスは、確かに手間と時間がかかるものです。しかし、この一連のプロセスを丁寧に進めることは、決して相手を疑うことではありません。
合併や事業譲渡という大きな決断をされる際は、この「調査のプロセス」を経営の最優先事項として参考になさってみてください。それが、地域に必要とされる福祉事業を継続する道の一つなのではないでしょうか。
本記事は、著者が一般的な社会福祉法人におけるDDの実務プロセスを想定したものとして書いています。具体的な調査範囲やスケジュールについては、公認会計士等の専門家と相談の上、個別の状況に合わせて進めてください。
【関連記事】
▶︎DDをわかりやすく解説①:DD(デューデリジェンス)とは?
▶︎DDをわかりやすく解説③:貸借対照表(B/S)の読み解き方
▶︎DDをわかりやすく解説④:事業活動計算書(P/L)分析
▶︎DDをわかりやすく解説⑤:資金収支計算書から見抜く「法人の真価」
社会福祉法人の経営や合併・事業譲渡でお悩みの方へ
「何から手をつければいいのか分からない…」
「判断の材料がほしい」
そんなお悩みに、専門的な視点からアドバイスいたします。
無料相談も承っておりますので、まずはお気軽に
お問い合わせ
ください!

社会福祉法人愛生会 理事長 / 趣味は神社仏閣巡りです。大宮の氷川神社と成田山新勝寺はずっと通い続けています。これからの社会福祉法人経営の悩み、問題、課題を一緒に考えていきましょう。

ましも法律事務所 代表/ 再び「スラムダンク」にはまっています。「最後まであきらめない」気持ちが仕事に向き合う姿勢と共感するからでしょうか。休日には「乗り鉄」の子供と一緒に関東近郊に「電車の旅」に出ています。車窓を見ながら本を読む時間が楽しみです。

所属:GSPartners / 大手会計事務所でM&A、組織再編など幅広い案件に携わってきました。地元秋田に戻ってからは、社会福祉法人監査など社会福祉事業に関する業務も手掛けております。皆様の課題解決の一助となれれば幸いです。週末は、小学生の息子と日帰り温泉巡りをしています。
コメント