
はじめに:合併とは「相手の過去」をすべて引き受けること
社会福祉法人の経営者の皆様にとって、法人の合併や事業譲渡は、地域の福祉を守るための大きな決断です。しかし、この決断には「相手法人のこれまでの歴史をすべて引き継ぐ」という重い責任が伴います。
法人の歴史が最も色濃く反映されているのが、貸借対照表(バランスシート:B/S)です。ここには、設立から今日に至るまでの資産の積み上げと、負債の記録が残されています。
「資産があると思っていたのに、実は価値がなかった」「知らない借金が後から出てきた」――。こうした事態を防ぐために、財務デューデリジェンス(DD)ではB/Sを徹底的に「解剖」します。
今回は、その精査のポイントを分かりやすく解説します。
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▶︎DDをわかりやすく解説⑤:資金収支計算書から見抜く「法人の真価」
1. 資産の部:その「未収金」や「積立金」は本物ですか?

しかし、帳簿に載っている金額が、そのまま「使えるお金」であるとは限りません。
現金預金の「実在性」を確認する
「通帳に1億円ある」と書かれていても、それが本当に法人の自由になるお金かを確認する必要があります。
未収金(介護報酬・利用料)の「回収可能性」
社会福祉法人で特に重要なのが、行政からの介護報酬や利用者様からの利用料の未収金です。
DDでは、滞納の期間を分析し、現実に回収できる金額まで数字を「削る」作業を行います。
ちなみに私の法人でも、デューデリジェンス(DD)ではなく、会計監査人による会計監査を数年前に実施したことがあります。その際に、10年程前の利用料金の未納分が未収金としてそのまま計上されていることもありました。
もう何年も前から未納になっていた回収不能であろう未収金は意外にあるかもしれません。
2. 固定資産の落とし穴:建物と土地の「真の価値」

施設の老朽化と「隠れた修繕義務」
建物は減価償却によって帳簿上の価値は減っていきますが、実態としての「傷み」はもっと深刻かもしれません。
DDでは、将来発生するであろう大規模修繕の予測を立て、それを実質的な「負債」として考慮します。
土地の時価を正しく把握する
数十年前に取得した土地が、現在の市場価格では半分以下の価値しかない(逆に数倍の価値になっている)というケースも珍しくありません。
法人がもつ「実際の資産」を正しく測るためには、時価での評価が欠かせません。
3. 負債の部:把握されていない「簿外負債」の有無
最も怖いのは、帳簿に載っていない負債、すなわち「簿外負債」です。
労務リスク(未払残業代など)
労務リスクは、福祉現場で最も発生しやすいものです。
退職給付債務の「積立不足」
4. 純資産の部:法人の「本当の体力」を見極める

「実態純資産」の算定
DDの目的の一つに、これまでの修正(資産の価値を減らし、簿外負債を足す)をすべて反映させた後の「実態純資産」を算出することがあります。
◾️資産の修正(回収不能な未収金など):▲2,000万円
◾️負債の修正(未払残業代や修繕引当など):▲5,000万円
実態純資産:3,000万円
このように、帳簿上は1億円の価値があるように見えても、実態は3,000万円しかないということが現実に起こります。
(このようなケースは実際にはあまりありませんが・・・)
5. なぜ社会福祉法人の経営者にこの視点が必要なのか?
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、合併や譲渡は、「地域やその住民への福祉サービスの供給責任を引き継ぐ」という目的のために行われます。
資産の実態を知らずに合併を進めてしまい、後から多額の負債や修繕費に追われ、自法人の経営まで立ち行かなくなれば、元も子もありません。
職員を守るために: 隠れたリスクを事前に把握していれば、無理のない統合計画を立てられます。
理事としての責任: 適切な調査を行わずに「マイナスの資産」を引き継ぐことは、法人に対する忠実義務違反に問われかねません。
まとめ:B/Sを把握することで、過去から現在がわかる

貸借対照表(B/S)を精査することは、相手法人の粗探しをすることではありません。
合併や事業譲渡という大きな節目において、B/Sの数字一つひとつに込められた実態を直視する。その勇気と誠実さこそが、地域の福祉を次世代へと繋ぐ、最も確実な土台となります。
「本当の姿」を知った上で、どう支え合い、どう再生させていくか。デューデリジェンスはそのための、経営者にとっての「羅針盤」なのです。
本記事は、著者が一般的な社会福祉法人の財務状態を評価する際の視点を解説したものです。実際の調査にあたっては、建物の耐用年数や労務管理ではどこまで精査するかなど、それぞれの法人の判断が必要となりますので、必ず公認会計士、社会保険労務士等の専門家へご相談ください。
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社会福祉法人愛生会 理事長 / 趣味は神社仏閣巡りです。大宮の氷川神社と成田山新勝寺はずっと通い続けています。これからの社会福祉法人経営の悩み、問題、課題を一緒に考えていきましょう。

ましも法律事務所 代表/ 再び「スラムダンク」にはまっています。「最後まであきらめない」気持ちが仕事に向き合う姿勢と共感するからでしょうか。休日には「乗り鉄」の子供と一緒に関東近郊に「電車の旅」に出ています。車窓を見ながら本を読む時間が楽しみです。

所属:GSPartners / 大手会計事務所でM&A、組織再編など幅広い案件に携わってきました。地元秋田に戻ってからは、社会福祉法人監査など社会福祉事業に関する業務も手掛けております。皆様の課題解決の一助となれれば幸いです。週末は、小学生の息子と日帰り温泉巡りをしています。
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