『職員の処遇の検討および説明』~社会福祉法人の吸収合併のための手続き その11〜

本記事では、厚労省「合併・事業譲渡等マニュアル」に基づき、

この記事の内容・社会福祉法人の吸収合併における「職員の処遇の検討および説明」
・実施事項とポイント、注意点

を詳しく解説します。

職員の処遇を検討および説明する意義

職員の処遇を検討し、適切に説明することは、吸収合併をスムーズに進めるために必要なステップの1つです。

合併は法人全体の組織構造に大きな変化をもたらすだけでなく、そこで働く職員にとっても影響を与えます。

POINT特に職員の給与や勤務条件、役職や勤務地の変更は、モチベーションや離職率に大きく影響します。

そのため、職員の不安を取り除き、信頼を得るための説明が欠かせません。

適切な処遇の検討と説明は、合併後の法人運営を維持し、基盤を安定させる鍵となってきます。

職員処遇の検討および説明における実施事項

職員処遇の検討および説明のステップですべきことは、以下の3つです。

実施事項1.給与体系、就業時間や休暇規程などの検討
2.合併後の職員の役職や配置の検討
3.職員への説明
4.就業規則の労働基準監督署への提出

それぞれについて、以下で詳しく解説します。

1.給与体系、就業時間や休暇規程などの検討

吸収合併により、異なる法人の職員が一つの組織に統合される場合、それぞれの法人で異なるであろう

・給与体系
・就業規則

をどのように統一するかが重要な課題となります。

POINT◾️給与体系の統一
例えば合併前の法人Aが年俸制、法人Bが月給制を採用している場合、どちらの制度を採用するか、あるいは新しい給与ルールを作成するかを検討します。


◾️休暇制度の調整
たとえば、法人Aでは有給休暇が年間20日、法人Bでは15日といった違いがある場合、職員に不公平感が出ないような統一方法を考えます。

どちらも職員が納得しやすい形にするために、透明性のある説明が必要です。

むらき

合併するにあたって、この給与体系や就業時間(勤務体制)、休暇制度の統一はとても重要な部分になります。職員のモチベーションやロイヤリティに深く関わってきます。そのため、労務関係に強い弁護士や社会保険労務士など専門家も交えて統一を図っていくのも重要ではないでしょうか。

2. 合併後の職員の役職や配置の検討

役職や配置の変更も職員のモチベーションに大きな影響を与えるため、慎重な計画が必要です。

たとえば、役職者が複数名重複する場合、どのように新しい組織構造を作り、職員の能力を最大限に活かすかを検討します。

適材適所の配置を心がけ、職員が納得しやすい基準を明確にすることがポイントです。

3. 職員への説明

職員への説明会を開催し、合併の目的や意義、職員への影響を分かりやすく伝えることが大切です。

たとえば、以下の内容を含めて説明をすると効果的です。

ポイント・合併による法人全体のメリット(事業の拡大、安定化など)
・処遇変更の詳細(給与、役職、勤務地の変更など)
・職員への影響と具体的な対応策

疑問や不安を抱える職員に対しては、個別に面談や相談会などの機会を設け、丁寧に対応することが信頼関係の構築につながります。

むらき

なによりも職員たちの不安感を取り除くこと、安心感を与えることが大切です。そのためにも事前の就業規則や給与規定の整合性を図ること、それらを整理することが重要になってきますね。

4.就業規則の労働基準監督署への提出

POINT新しい就業規則を作成した場合は、労働基準監督署に提出する必要があります。

これは法的に定められた手続きです。専門家のサポートを受けながら適切に進めましょう。

不備があると再提出が必要になるため、事前確認を徹底しましょう。

その他:共済契約の引き継ぎと手続きの注意点

福祉医療機構の退職手当共済は、吸収合併後も存続法人が共済契約を引き継ぐ場合、消滅法人の契約は解除されますが、職員の退職扱いにはなりません。共済期間は通算されます。

ただし、契約承継や新規加入施設の手続きが必要なため、手続き漏れがないよう福祉医療機構に事前に相談してください。

むらき

このことについても、保育関係の事業と、その他介護・障がい関係の事業では取扱が異なりますので、事前に福祉医療機構に問い合わせることが大切ですね。

職員への吸収合併を知らせるタイミングは?

職員に合併の事実を伝えるタイミングは非常に重要です。

合併交渉の初期段階で職員に情報を伝えると、憶測や噂が広まり、交渉そのものに悪影響を与える可能性があります。

また、情報共有のタイミングを誤ると、職員の間に混乱が生じ、モチベーションの低下や不必要な不安を招くことがあります。

そのため、

POINT・合併の基本合意書や契約書の取り交わしが完了した段階で知らせることが一般的となっています。
・情報を伝える際には、適切な説明と対応策を用意した上で進めることが大切です。
むらき

このタイミングが合併がうまくいくかどうかの重要なポイントになります。下記にも書きましたが、基本合意書や契約書を取り交わす前に、給与規定や休暇も含めた就業規則の統一、すり合わせの交渉と合意を済ませる、というのがとても大切です。

吸収合併協議の重要な項目として早めに検討すべきこと

合併協議の初期段階から、職員の処遇や配置についてしっかりと話し合っておきましょう。

これらの事項は職員に直接関わるため、後回しにすると問題が深刻化する可能性があります。

また、法的リスクや運営上のトラブルを未然に防ぐため、弁護士や社会保険労務士といった専門家に相談することも効果的です。専門家の意見を取り入れることで、合併手続き全体をスムーズに進めることができます。

消滅法人の職員への対応

消滅法人にとっても、合併は大きな環境変化です。

職員の中には、自分の立場や将来に不安を抱える人もいるかもしれません。

そのため、まずは職員に安心感を与えることが最優先です。
具体的には以下のような対応が望ましいです。

POINT・合併後も給与や労働条件が維持されることを明確に伝える
・個別面談を行い、職員の不安を解消する
・合併の意義やメリットを丁寧に説明する

これらの対応を通じて、職員が新しい環境に適応しやすい状態を整えましょう。

まとめ

今回は、「職員の処遇の検討および説明」について解説しました。

吸収合併後の給与体系や役職、勤務地の変更に対する慎重な計画と説明が必要になります。
また、消滅法人の職員に対しては、特に安心感を与える対応が求められます。

合併協議の初期段階から職員の処遇について十分に話し合い、専門家のアドバイスを活用しながら適切な準備を進めましょう。これにより、合併後の法人運営を円滑に進める土台を築くことができます。

村木 宏成

福祉の世界にたずさわり、さまざまな種別の福祉事業に取り組んできました。 生産年齢人口の急減に伴う「供給制約」、出生数減少に伴う保育需要の減少、後期高齢者数のピークアウトに伴う「需要消失」、そうした課題が、それぞれの地域ごとに並列していく時代がきています。これからの社会福祉法人は、それぞれの地域での福祉サービスを継続していくためにも、法人の合併・事業譲渡・社会福祉事業の再編統合なども視野に入れていかなければなりません。 社会福祉事業を経営するあなたの事業の悩み、問題、課題の最適解を一緒に考えていきましょう。 趣味は神社仏閣巡り 大宮の氷川神社、成田山新勝寺には長年通い続けています。

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