『役員等の検討』~社会福祉法人の吸収合併の手続き その2〜

こちらのカテゴリでは、厚労省の「合併・事業譲渡等マニュアル」を詳しく解説していきます。
今回は、社会福祉法人の「吸収合併の際に必要な手続き その2」として、

POINT役員等の検討のしかたと注意点

を、マニュアルの該当部分からわかりやすく解説してまいります。


▼前回の記事では「合意形成」についてお話しました。こちらの記事もご覧ください。

吸収合併後、「特定社会福祉法人」になる可能性がある

役員等の検討の前に、吸収合併により事業規模が拡大した場合、「特定社会福祉法人」として認定される可能性があります。

特定社会福祉法人とは

特定社会福祉法人とは、一定以上の事業規模や財務基準を満たす社会福祉法人を指します。

この法人は、他の社会福祉法人よりも高いレベルの透明性と財務管理が求められ、地域住民や利用者に対して運営状況を詳細に開示する義務があります。

具体的には、以下のような要件に該当すると特定社会福祉法人として認定されます。

POINT
  • 収益基準:サービス活動収益が一定以上(30億円以上)であること
  • 負債基準:法人の負債が60億円を超えていること

特定社会福祉法人に該当するとどうなる?

特定社会福祉法人に該当すると、以下のようなことが求められます。

POINT・会計監査人の設置が義務付けられ、財務管理や監査体制が強化される
・法人全体のガバナンスがより高度に求められ、公共性と透明性が強調される
・地域における社会的な役割や期待が増し、法人運営の適正さを持続的に証明する必要がある

そのため、吸収合併時には将来的な規模の成長も考慮し、事前に対応準備を進めることが大切です。

むらき

特定社会福祉法人は、現在サービス活動収益30億円(負債60億円)が基準となっていますが、この基準額を引き下げる議論も行われています。金額が引き下げられることにより、特定社会福祉法人に該当することもあるかと思いますので、制度動向は常に注視していきましょう

あらたな評議員、理事、監事、会計監査人の検討

吸収合併に伴い、法人の規模や事業内容が変わる場合、

新たな組織体制

を整える必要があります。

法人運営を支える評議員や理事、監事、会計監査人といった役職の役割は、法人の規模や提供するサービスによって求められる内容が異なります。

そのため、適切な人材を選出しなければなりません。

特に、規模が拡大することで会計監査人の設置が必須となる場合があり(=特定社会福祉法人)、そのための体制整備が重要です。

また、評議員や理事には、それぞれ社会福祉の専門知識や適切な経験が求められます。

以下で詳しく解説します。

評議員、役員の資格及び権限・義務

合併後の社会福祉法人には、ガバナンス強化の観点から評議員、理事、監事、会計監査人の役割や義務が明確化されています。

平成28年の法改正により、これらの役職者は適切な選任手続きと法令遵守が求められます。

POINT

評議員:法人の適正な運営に必要な識見を持つことが必要とされ、経営に関する見識が求められます。

理事:理事のうち、福祉事業の経営に詳しい者や、地域の福祉に関する知識を持つ者を含める必要があります。

監事:理事の職務を監査し、法人の財務や会計に関する適正性を確認します。

会計監査人:一定の財務規模(サービス活動収益30億以上または負債60億以上)に達した場合に、会計監査人の設置が義務化され、詳細な会計監査が行われます。

むらき

監事などは、社会福祉法人会計基準に通じている税理士や公認会計士にお願いすることも多いですね。

各役職者には、善管注意義務と委任義務が生じるため、そのことに違反した場合は、法人への損害賠償責任も伴うことになるため、適正かつ責任を持った業務遂行が必要です。

役員等の検討にあたっての注意点

新しい組織体制を構築する際には、以下の点に注意が必要です。

POINT1.適切な選任手続きの実施
2.定款の変更が必要な場合の対応
3.責任分担と業務整理の検討
4.地域住民への説明責任の強化

1.適切な選任手続きの実施

役員や評議員には、職務を十分に理解し、法人のガバナンスに貢献できる識見が求められます。
法人運営が透明かつ適正であることを証明できる人材を確保することが重要です。

2.定款の変更が必要な場合の対応

評議員や役員の定員を増やす場合は、定款の変更が必要です。
法的手続きについて事前に確認し、スムーズに進めましょう。

3.責任分担と業務整理の検討

合併により役職者が増える場合は、責任分担や業務内容を整理する必要があります。
役職者が増えることで意思決定が遅くなるリスクがあるため、効率的な運営を目指した組織体制を検討しましょう。

4.地域住民への説明責任の強化

社会福祉法人の規模が拡大することで、地域住民への説明責任が増加します。
運営方針を見据えた人材配置を行い、透明性の高い運営体制を構築することが必要です。

このように、合併後の法人規模や運営体制について、長期的な視点で準備を整えることが、特定社会福祉法人としての責任を果たすためのポイントとなります。

まとめ

社会福祉法人の合併は、規模拡大とともに「特定社会福祉法人」として認定される可能性があり、より厳しい財務管理や説明責任が求められます。

吸収合併を成功させるためには、

POINT
  • 適切な役員・評議員の選任
  • 定款変更や法的手続きへの対応
  • 責任分担の整理と効率的な組織運営
  • 地域社会や利用者への説明責任の強化

これらを事前に準備し、将来を見据えた運営体制を整えることで、合併後も安定した法人運営を実現できます。

必要に応じて専門家の助言を受けながら進めていきましょう!

村木 宏成

福祉の世界にたずさわり、さまざまな種別の福祉事業に取り組んできました。 生産年齢人口の急減に伴う「供給制約」、出生数減少に伴う保育需要の減少、後期高齢者数のピークアウトに伴う「需要消失」、そうした課題が、それぞれの地域ごとに並列していく時代がきています。これからの社会福祉法人は、それぞれの地域での福祉サービスを継続していくためにも、法人の合併・事業譲渡・社会福祉事業の再編統合なども視野に入れていかなければなりません。 社会福祉事業を経営するあなたの事業の悩み、問題、課題の最適解を一緒に考えていきましょう。 趣味は神社仏閣巡り 大宮の氷川神社、成田山新勝寺には長年通い続けています。

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