『事前開示』~社会福祉法人の吸収合併のための手続き その4〜

事前開示とは、社会福祉法人の吸収合併に関する大事な情報を職員や利用者、地域の方々など関係者に伝えるためのステップです。

本記事では、厚労省「合併・事業譲渡等マニュアル」に基づき、

この記事の内容・事前開示の目的と法的要件
・事前開示の具体的な実施事項
・事前開示における注意点

を詳しく解説します。


▼今回解説する「事前開示」の前段階である「合併契約書の作成」については、以下の記事をごらんください。

事前開示とは何か?目的と法的要件について

まず最初に、吸収合併における事前開示の目的と法的要件を確認しておきましょう。

POINT

【事前開示の目的】
職員や利用者、地域住民を含む関係者全体に対し、合併の目的や内容、影響について正確な情報を提供すること。

【法的要件】
合併契約について評議員会で決議を行う日の
2週間前から合併登記日まで、関連書類を主たる事務所に備え置くことが義務付けられています。

むらき

私たちの社会福祉法人にはいわゆる「株主」のようなステークホルダーは存在しません。だからこそ、職員、利用者、地域住民まで含めた幅広い関係者に対して、事前開示で情報をしっかり共有し、透明性を保ちながら、合併についての疑問や不安を解消し、そうした関係者それぞれとの信頼関係を築くことが大切ですね。

事前開示の具体的な実施事項

こちらは事前開示の具体的な流れです。以下の①書類を準備し、②公開します。

POINT①書類の準備
・合併契約書(作成方法はこちらの記事を参照してください)
・財務諸表(収支状況などがわかるもの)
・合併後の事業計画書
・職員や利用者に関する詳細情報


②書類の公開
上記の書類を、関係者が閲覧可能な状態で保管します。
デジタル形式での公開も有効です。

消滅法人と存続法人における対応の違い

合併後も存続する法人と消滅する法人で、それぞれ事前開示への対応が異なります。
以下に、それぞれの法人が果たすべき役割と対応の違いを表にまとめました。

項目吸収する法人(存続法人)吸収される法人(消滅法人)
(1) 備置き合併契約に関する書面や電磁的記録を、評議員会の2週間前から登記の日後6か月間、主たる事務所に備え置きます。合併契約書や関連資料を評議員会の2週間前から登記日まで備え置く必要があります。
(2) 閲覧請求への準備評議員や債権者は、業務時間内であればいつでも以下の請求が可能:
1. 書類の閲覧
2. 謄本または抄本の交付
3. 電磁的記録の閲覧または提供
 同様に、評議員や債権者が書類や電磁的記録に対する閲覧や提供の請求を行う場合、適切に対応する必要があります。
むらき

吸収する法人(存続法人)と吸収される法人(消滅法人)で対応に違いがあることを知っておきましょう!

消滅法人と存続法人における事前開示項目の違い

上記で事前開示への対応について解説しましたが、内容(項目)についても、「吸収する法人」と「吸収される法人」で異なります。
それぞれの法人が公開するべき情報は以下のとおりです。

吸収する法人(存続法人)の事前開示事項

項目内容
合併契約書の内容合併の条件や合意事項を明記した合併契約書を公開
最終会計年度の財務諸表貸借対照表や収支計算書など、財務状況を明らかにする資料を開示。
監査報告書最終会計年度の監査結果を記載した報告書を公開
合併後の事業計画合併後の具体的な事業運営の見通しや計画を示す。
職員の処遇に関する詳細合併後の職員の雇用条件や配置計画について、具体的に説明する。

吸収される法人(消滅法人)の事前開示事項

項目内容
合併契約書の内容合併の条件や権利義務の移転に関する具体的内容を明記した合併契約書を公開。
最終会計年度の財務諸表合併時点までの貸借対照表や収支計算書を開示し、財務状況を明らかにする。
法人解散に伴う処理事項財産処分や契約引き継ぎの詳細、消滅法人の最終業務に関する情報を説明。
地域や利用者への影響説明合併後の事業継続や施設運営に関する影響を具体的に示す。

存続法人と消滅法人の事前開示項目の大きな違いは、

開示項目のちがいとポイント・存続法人は、合併後の事業計画や運営方針を示すことが求められる
・消滅法人は、財産や権利義務の引き継ぎに関する情報を明確にする

ということです。

POINT存続法人は今後の運営を透明にする責任があり、消滅法人は合併前の状況を正確に伝える必要があります。

事前開示における注意点

事前開示を適切に行うためには、法律で定められたルールを守りつつ、関係者が情報を理解しやすいように工夫することが大切です。
以下に、注意すべきポイントをまとめました。

情報の透明性を確保する

情報が不足していると、不信感を招く可能性があります。

・合併後の事業方針
・職員の処遇 など

を明確に示す必要があります。

スケジュール管理

書類の備置き期間を厳守することが大切です。

合併契約についての重要な書類やデータは、

POINT評議員会で決議を行う日の2週間前から、合併登記が完了する日まで、法人の事務所に保管しておく必要があります。

この期間中、関係者が自由に閲覧できるよう準備しておきましょう。

スケジュールをしっかり確認して、法定期間を守ることが重要です。

理解を促進する工夫

専門用語を避け、平易な言葉で説明する

合併に関する情報を伝える際、専門用語が多すぎると関係者が内容を正しく理解できず、不安を感じることがあります。

そのため、難しい言葉はできるだけ使わず、日常的な言葉に置き換えて説明することが大切です。

例えば、「財務諸表」を「お金の出入りを示した資料」と説明するなど、具体的で分かりやすい表現を心がけましょう。

図表やスライドを活用して視覚的にわかりやすく

文章だけでは伝わりにくい内容も、図表やスライドを使うことで一目で理解できるようになります。

特に、合併の流れや財務状況の変化など、視覚的に表現することで、関係者の興味を引きやすくなります。

また、カラフルな配色や簡潔なデザインにすることで、情報を整理し、より効果的に伝えることが可能です。

まとめ

今回は、社会福祉法人の吸収合併における「事前開示」というステップについて解説しました。

消滅法人と存続法人における対応や開示項目の違いをしっかり把握し、スケジュールに余裕を持って進めましょう。

▼今回解説した「事前開示」の前段階である「合併契約書の作成」については、以下の記事をごらんください。



社会福祉法人の事業譲渡や合併でお困りの方は、当コンサルまでお気軽にお問い合わせください。

村木 宏成

福祉の世界にたずさわり、さまざまな種別の福祉事業に取り組んできました。 生産年齢人口の急減に伴う「供給制約」、出生数減少に伴う保育需要の減少、後期高齢者数のピークアウトに伴う「需要消失」、そうした課題が、それぞれの地域ごとに並列していく時代がきています。これからの社会福祉法人は、それぞれの地域での福祉サービスを継続していくためにも、法人の合併・事業譲渡・社会福祉事業の再編統合なども視野に入れていかなければなりません。 社会福祉事業を経営するあなたの事業の悩み、問題、課題の最適解を一緒に考えていきましょう。 趣味は神社仏閣巡り 大宮の氷川神社、成田山新勝寺には長年通い続けています。

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