『合併契約書の作成』~社会福祉法人の吸収合併のための手続き その3〜

社会福祉法人の吸収合併を進める際、合併契約は重要なステップです。
本記事では、厚労省「合併・事業譲渡等マニュアル」に基づき、

この記事の内容・合併契約書の作成〜締結までの流れ
・消滅法人の手続き
・実際の事例における取り組み

を詳しく解説します。

合併契約書作成〜締結までの流れ

社会福祉法人の合併契約における実施要項は、以下の2点です。

POINT・合併契約書の作成
・合併契約の締結

1.合併契約書の作成

合併契約書は、合併に関わるすべての法人間で合意した内容を明文化したものです。

これにより、合併条件が明確になり、誤解やトラブルを未然に防ぐことができます。

1-1.合併契約書作成の流れ

合併契約書作成の流れは、以下のとおりです。

POINT

【合併契約書作成の流れ】

1.各法人が合併の目的や条件を明確にし、契約書案を作成します。

2.作成した案を基に、両法人で詳細を検討します。

3.必要に応じて、専門家の助言を受けながら最終的な内容を確定させます。

むらき

各法人がその中身等詳細をチェックするためにも、合併検討委員会などの協議体を設けること。弁護士や会計士、社会保険労務士などの専門家と一緒に、内容を確認していくことも大切です。

1-2. 合併契約書に含めるべき主な項目

合併契約書には、法的要件をすべて含むことが求められます。

合併契約書に含めるべき主な項目は以下の通りです。

合併契約書に含めるべき主な項目

◾️法人の名称と所在地
合併する法人の正式名称と所在地を明記します。

◾️合併効力発生日
合併が正式に効力を持つ日を記載します。
この日を境に、吸収存続法人がすべての権利と義務を引き継ぎます。

◾️職員の処遇
合併後の職員の雇用条件や待遇を明確にします。
特に、給与や役職に関する変更があれば具体的に記載します。

◾️財産・負債の引き継ぎ
合併後の資産や負債がどのように承継されるかを詳細に記載します。

◾️その他の合意事項
両法人間で特に合意した条件(例: 合併後の事業方針や役員体制)を追加します。

むらき

合併契約書を作成するにあたって、弁護士等の専門家の支援を得ることでスムーズに作成できることもあります。ぜひ活用を検討していきましょう。

1-3.理事会での審議と承認

合併契約書を作成したら、各法人の理事会で契約内容を審議し、承認を得ます。

POINTこの際、議事録を作成し、記録として残しましょう。

2.合併契約の締結

2-1.評議員会での承認

合併契約について完全に合意したら、評議員会を招集します。
決議を採り、正式に締結します。

POINTこちらも議事録を作成し、記録として残しましょう。

透明性を確保するため、評議員全員に対して十分な説明を行い、納得を得ることが重要です。

消滅法人の手続きについて

合併により消滅する法人には、以下の手続きが求められます。

解散登記の実施

法務局において、消滅法人の解散登記を行います。

これにより、法人の解散が法的に記録されます。

POINT合併では、存続法人が消滅法人の権利や義務をすべて引き継ぐため、精算手続きは行う必要がありません。

財産と負債の整理

消滅法人の財産や負債は、契約書の内容に基づき吸収存続法人へ引き継がれます。

未解決事項の処理

消滅法人が保有していた契約や事務手続きを吸収存続法人が引き継ぎ、処理します。

記録の保管

消滅法人の議事録や財務資料は、吸収存続法人が適切に保管します。

実際の事例における取組み・工夫点

社会福祉法人が合併を成功させるには、初期段階で合併条件を明確にし、基本合意書を締結することが重要です。

▼「合意形成」については、こちらの記事で詳しく解説しています。

この早期対応により、その後の協議がスムーズに進みやすくなります。

以下は、実際の合併事例において実施された工夫です。

ケース1. 事業の継続と施設の改善

吸収される法人側の要望として、

「現行の事業を維持すること」
「施設の改修や改築を行うこと」

が合併条件として盛り込まれました。

例えば、高齢者福祉施設を運営する法人が吸収される場合、施設の老朽化問題がネックになることがあります。

この場合、合併契約の中で改修計画を具体的に提示し、吸収後の運営方針と整合性を持たせることで、法人間の信頼関係が強化されます。

ケース2. 役員体制の調整

存続法人は、吸収される法人の役員から1名を理事として受け入れることで、双方の法人が一体感を持って合併後の運営を進められる体制を整えました。

例えば、地元コミュニティに密着した活動をしている法人から理事が選任されると、合併後も地域の声を反映した経営が可能になります。

ケース3.合併後の不安解消

吸収される法人の職員については、雇用条件を十分に配慮することが契約書に盛り込まれ、合意されました。

特に給与や勤務時間が従来の条件と大きく変わらないよう調整されることで、職員が安心して働き続けられる環境が整備されます。

例えば、特養(特別養護老人ホーム)の看護師や介護士など専門職が多い場合、雇用条件を明らかにしておくことが、離職を防ぐ大きな要素になります。

これらの工夫は、法人間の信頼を築きながら合併を円滑に進める重要なポイントです。

「自法人の場合は、具体的にどう進めればいいんだろう?」とお困りの方は、当コンサルサービスにぜひご相談ください。

経験豊富な専門スタッフと共に、実務的なアドバイスを提供させていただきます。

むらき

存続法人は吸収法人の財産や債務、労務上の責務などをすべて引き継ぎます。そのため、弁護士や会計士などの専門家による事前調査(デューデリジェンス)を行う必要があります。社会福祉法人の合併や事業譲渡でも、事前調査(デューデリジェンス)がなぜ必要なのか別記事にまとめますので、お待ちください

まとめ

今回は、合併契約書の作成から締結までの流れ、消滅法人の手続き、実際の事例における取組みをご紹介しました。

特契約書には法令に基づく項目を網羅し、透明性を確保することが求められます。

また、消滅法人の適切な解散手続きや、合併後のスムーズな運営を目指した工夫が成功のカギとなります。

▼合併契約を締結する前には「合意形成」「役員等の検討」というステップが必要となります。こちらも以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひ読んでみてください。

村木 宏成

福祉の世界にたずさわり、さまざまな種別の福祉事業に取り組んできました。 生産年齢人口の急減に伴う「供給制約」、出生数減少に伴う保育需要の減少、後期高齢者数のピークアウトに伴う「需要消失」、そうした課題が、それぞれの地域ごとに並列していく時代がきています。これからの社会福祉法人は、それぞれの地域での福祉サービスを継続していくためにも、法人の合併・事業譲渡・社会福祉事業の再編統合なども視野に入れていかなければなりません。 社会福祉事業を経営するあなたの事業の悩み、問題、課題の最適解を一緒に考えていきましょう。 趣味は神社仏閣巡り 大宮の氷川神社、成田山新勝寺には長年通い続けています。

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