『債権者保護手続き』~社会福祉法人の吸収合併のための手続き その7〜

このカテゴリでは、厚労省「合併・事業譲渡等マニュアル」に基づき、社会福祉法人の吸収合併における手続きについて詳しく解説します。

今回の記事では、その中の「債権者保護手続き」について解説します。

この記事の内容・債権者保護手続きとは
・債権者保護手続きの実施事項
・注意点とポイント

▼今回解説する「債権者保護手続き」の前段階である「所轄庁の認可」については、以下の記事で解説しています。


▼「新設合併」の場合の債権者保護手続きに関しては以下の記事をご覧ください。

「債権者保護手続き」とは

まず「債権者保護手続きは、そもそも何のためにするものなのか」をご説明します。

債権者保護手続きは、

POINT合併に伴って法人の経済状況や契約条件が変わることで、債権者(お金を貸している側)に不利益が生じないようにするための法的な手続きです。

たとえば、A法人が消滅してB法人に統合される場合、A法人に対してお金を貸していた金融機関は

「本当に返済されるのか?」

と不安になりますよね。

こうした不安を取り除き、信頼関係を保つために債権者へ通知や説明を行うのがこの手続きの目的です。

一般企業の債権者保護手続きとの共通点

一般企業と社会福祉法人の債権者保護手続きにおいては、以下のような共通点があります。

一般企業の債権者保護手続きとの共通点
  1. 手続きの目的
    債権者に異議を述べる機会を提供し、不利益を被らないよう配慮する点は共通です。

  2. 主な手続き
    ・官報への公告
    ・個別催告書の送付
    ・異議申立て期間の確保(最低1ヶ月以上)
    ・異議がなかった場合は承認とみなす点

  3. 異議への対応
    弁済や担保の提供、信託銀行などへの財産信託で対応することも似ています。

  4. スケジュール管理
    登記や効力発生日までに完了させる必要があります。

一般企業の債権者保護手続きとのちがい

上記で一般企業の場合との共通点を挙げましたが、社会福祉法人の場合は以下のような違いがあります。

一般企業の債権者保護手続きとのちがい①所轄庁の関与
一般企業  →法務局が関与
社会福祉法人→所轄庁(自治体や福祉関連の監督機関)が関与

合併認可と並行して手続きが進むため、所轄庁との連携が必須です。


②公告の方法
一般企業  →官報や日刊新聞紙が主流
社会福祉法人→官報や新聞に加え、事務所や法人ホームページでの掲示を求められる場合があります。

これにより、福祉関係者や地域住民への透明性が確保されます。


③債権者の範囲
一般企業  →主に金融機関や取引先が対象
社会福祉法人→福祉医療機構や自治体など、特定の福祉関連機関が債権者として含まれることがあります。

これらの機関には特有の書類や調整が必要です。


④手続きの法的根拠

一般企業  →”会社法”が適用される
社会福祉法人→”社会福祉法”が適用される

これにより、福祉特有の規制や手続きが追加される場合があります。


⑤提出書類の種類
社会福祉法人では、債権者保護手続きの進捗や対応に関する報告書を所轄庁に提出する場合があります。
これらは一般企業では通常求められません。

むらき

このように一般企業とは、異なる債権者保護手続きになることに注意してください。

債権者保護手続きの実施事項

POINT社会福祉法人の吸収合併では、消滅法人・存続法人の双方で債権者保護手続きを行う必要があります。

手続きの遅れや不備を防ぐためにも、早めの準備と進行管理が重要です。

具体的な実施要項は以下のとおりです。

1.貸借対照表の要旨の作成

吸収合併に関わる法人の財務状況を明確にするため、貸借対照表の要旨を作成します。

これは債権者に対して、法人の財務健全性を説明し、合併後の財政基盤への信頼を得るための重要な資料となります。

2.公告の実施

官報や日刊新聞紙などで、吸収合併に関する公告を行います。

Tips公告の目的は、広く債権者に合併を知らせることで、必要に応じて異議を申し立てる機会を提供することです。

3.催告書の送付

各債権者(金融機関や取引先など)に対して、合併の詳細を記載した催告書を送付します。

Tips公告だけでは周知が不十分な場合もあるため、個別通知によって確実に情報を届けることが求められます。

4.債権者が異議を述べた場合

債権者が異議を申し立てた場合は、その内容を確認し、適切な対応を行います。

Tips具体的には、債務の返済計画を説明したり、必要に応じて条件の再調整を行うことが含まれます。

債権者保護手続きのポイント

ここでは、債権者保護手続きのポイントと注意点について解説します。

金融機関や福祉医療機構への催告と事前調整が重要

合併が決まった場合、債権者(金融機関や福祉医療機構など)に対して、合併内容を記した催告書を送付します。

Tipsこの際、債権者が異議を申し立てられる期間を設定し、その間に確認作業を進めることが重要です。

信頼関係を保つためにも早めに連絡を取り、手続きの遅れを防ぎましょう。

福祉医療機構から借入を行っている場合

福祉医療機構(WAM)から借入を行っている場合、合併に伴い多くの提出書類が求められます。

これらの書類は準備に時間がかかるため、早い段階で福祉医療機構に相談し、必要な書類や手続きを確認しておくことが重要です。

おもな必要書類は以下のとおりです。

必要となる書類・催告書 ・合併理由書(任意様式)
・合併認可申請書および認可書(写)
・合併契約書(写)
・合併前の各法人の法人登記簿謄本(写し可)
・合併前の各法人の決算書(財産目録含む/直近1か年分)
・合併後の法人の定款(案)
・合併後の新役員名簿 
・合併契約書の写し
・合併後の事業計画や財務計画
・債権者保護手続きの進捗報告

(引用:厚労省「合併・事業譲渡等マニュアル」より)

これらの書類は所轄庁への提出書類とも重なる場合があります。

▼関連記事:「所轄庁の認可」について


早めに相談し、手間の重複を避けながら効率的に進めましょう。

むらき

ここで挙げている以外にも、金融機関によっては、求められる書類が違ったり、さらなる追加書類が必要であったりしますので、その点も事前にしっかり確認しておきましょう。

存続法人が気を付けること

存続法人は、消滅法人から引き継ぐ借入債務を確実に履行する責任を負います。

そのため、金融機関や福祉医療機構との間で合併の詳細を共有し、事前にしっかりと調整を行いましょう。
合併後のスムーズな運営につながります。

まとめ

今回は、「債権者保護手続き」について解説しました。

「債権者保護手続き」は、債権者が合併による不利益を被らないよう配慮するための重要な手続きです。

公告や催告書の送付、債権者からの異議対応など、消滅法人と存続法人の双方で行う必要がありますので、早い段階から準備を行いましょう。

吸収合併後の法人運営を円滑に進める基盤となる大切なステップとなりますので、今回の記事を参考に、適切な準備を進めてくださいね。

村木 宏成

福祉の世界にたずさわり、さまざまな種別の福祉事業に取り組んできました。 生産年齢人口の急減に伴う「供給制約」、出生数減少に伴う保育需要の減少、後期高齢者数のピークアウトに伴う「需要消失」、そうした課題が、それぞれの地域ごとに並列していく時代がきています。これからの社会福祉法人は、それぞれの地域での福祉サービスを継続していくためにも、法人の合併・事業譲渡・社会福祉事業の再編統合なども視野に入れていかなければなりません。 社会福祉事業を経営するあなたの事業の悩み、問題、課題の最適解を一緒に考えていきましょう。 趣味は神社仏閣巡り 大宮の氷川神社、成田山新勝寺には長年通い続けています。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。