『資産・負債の移管』|社会福祉法人の事業譲渡のための手続きその⑩

この記事の内容本記事では、厚労省「合併・事業譲渡等マニュアル」(176〜178ページ)をもとに、
『事業譲渡に伴う資産・負債の移管』について解説します。

事業譲渡では、譲渡する資産や負債の移転手続きが必要になりますが、特に不動産や借入金が関わる場合は慎重な対応が求められます。手続きの流れや注意点を分かりやすく説明していきます!

▼前回の記事はこちら

実施要項

まず最初に、資産移管における実施事項をまとめました。

(1) 基本財産の譲渡(譲渡側・譲受側) 事業譲渡の対象となる財産のうち、基本財産の所有権移転を目的とした契約を締結する。
(2) その他財産の譲渡(譲渡側・譲受側) 基本財産以外の財産について、各資産の現状や有無を確認し、移転の要否を決定した上で契約を取り交わす。
(3) 負債の譲渡(譲渡側・譲受側) 譲渡事業に負債がある場合、債権者と協議のうえ、債務引受の手続きを行う。
(4) 不動産の登記移転(譲受側) 登記変更が必要な資産について、法務局へ登記の変更手続きを行う。

以下でそれぞれのポイントを解説します!

 (1) 基本財産の譲渡(譲渡側・譲受側)

POINT基本財産とは、法人の運営基盤となる重要な資産(不動産や設備など)。
事業譲渡の際には正式な契約を締結し、所有権の移転手続きを行う必要があります

基本財産の譲渡手続き

社福経営者Aさん

基本財産の譲渡って、普通の資産譲渡と違うんですか?



むらき

はい!基本財産は法人の運営に関わる重要な資産なので、評議員会の承認や正式な契約手続きが必要になります。

1.譲渡する基本財産の確定
どの財産が譲渡対象になるかを確認する。

2.譲渡契約の締結
・基本財産の所有権移転を目的とした契約を交わす。
・譲渡条件(価格、移転時期、負担の有無など)を明確にする。

(2) その他財産の譲渡(譲渡側・譲受側)

POINT基本財産以外にも、事業譲渡では設備、車両、備品、運営資金などのその他財産の譲渡が発生します。

その他財産の譲渡手続き

1.財産リストの作成
・どの資産を譲渡するのか、リストを作成。
・現物確認を行い、譲渡の可否を判断。

2.契約書の作成・締結
・資産ごとに移転の要否を定め、譲渡契約を締結する。

社福経営者Aさん

基本財産以外の資産も、契約を交わさないといけないんですね!

 (3) 負債の譲渡(譲渡側・譲受側)

POINT事業譲渡の対象に負債(借入金など)が含まれる場合、債権者(銀行や金融機関など)の承認を得る必要があります

負債の譲渡手続き

1.負債の内容を確認
・どの借入金・債務が譲渡の対象になるのか確認する。
・債務の条件や利息などを整理する。

2.債権者との協議
・負債を引き継ぐ場合、債権者(銀行など)の承認が必要
・譲渡法人・譲受法人・債権者の三者で協議を行う。

3.債務引受の契約締結
・債権者が承認した場合、正式な契約を締結。
・必要に応じて、保証契約の見直しや新たな担保の設定を行う。

社福経営者Aさん

借入があると、譲渡も簡単にはいかないんですね!



むらき

はい、抵当権の抹消などは債権者の承認が必要なので、金融機関としっかり話し合いましょう。

 (4) 不動産の登記移転(譲受側)

POINT不動産の所有権移転は、事業譲渡の中でも特に重要な手続きのひとつです。法務局での登記変更が必要となるため、慎重に進めましょう。

不動産の登記移転の手続き

1.譲渡契約の締結
・不動産の譲渡条件を明確にした契約書を作成・締結。

2.登記移転手続きの実施
・金銭の授受と同時に、不動産の所有権移転登記を行う。
・必要に応じて、司法書士に手続きを依頼

3.抵当権の処理(借入がある場合)
・借入がある不動産の場合、譲渡側で抵当権の抹消登記を行い、譲受側で新たに抵当権を設定する
・金融機関との協議を経て、契約を締結。

むらき

登記移転は、司法書士に依頼しましょう!

資産の移管における工夫とポイント

事業譲渡では、基本財産やその他の資産の移管に関して、法人ごとに異なる工夫がされています。
実際の事例では、次のような取り組みが行われました。(”合併・事業譲渡等マニュアル“P178より)

① 基本財産とその他資産の契約を分けて対応

事業譲渡契約の代わりに、基本財産は「財産無償譲渡契約」を結び、その他の資産はその契約に付帯する形で書面を取り交わすことで、契約を整理しやすくしました。

② 現預金の移管は慎重な協議が必要

流動資産の中には、移転するかどうかの判断が難しいものもあり、特に現預金の移管金額については、何度も協議を重ねる必要があったとのこと。

スムーズに進めるためには、移管資産について事前に十分な協議時間を確保することが重要です。

③ 負債の引継ぎ範囲を明確化し、効率的に手続きを進める

流動負債は一切引き継がず、固定負債のみ、長期設備投資資金の借入金と退職給与引当金に限定する。

その結果として、債務引受の手続きは福祉医療機構と1つの金融機関のみで完了し、スムーズに進めることができました

まとめ

今回は、事業譲渡に伴う資産・負債の移管手続きについて解説しました。ポイントを整理すると…

POINT
  • 基本財産の譲渡は、正式な契約締結と登記変更が必要

  • その他の財産も、リスト作成・契約締結・移転手続きが必要

  • 負債の譲渡には、債権者(金融機関など)の承認が必要

  • 不動産の登記移転は、契約締結後、金銭の授受と同時に行うのが一般的

  • 抵当権がある場合は、抹消・設定の手続きが必要で、司法書士に依頼するのがベスト

 

資産・負債の移管は、慎重な手続きとスケジュール管理が重要です。

今回の記事を参考に、スムーズな事業譲渡を進めていきましょう!

当サイトでは、社会福祉法人の合併や事業譲渡についてのアドバイスをしておりますので、お気軽にお問い合わせください。

村木 宏成

福祉の世界にたずさわり、さまざまな種別の福祉事業に取り組んできました。 生産年齢人口の急減に伴う「供給制約」、出生数減少に伴う保育需要の減少、後期高齢者数のピークアウトに伴う「需要消失」、そうした課題が、それぞれの地域ごとに並列していく時代がきています。これからの社会福祉法人は、それぞれの地域での福祉サービスを継続していくためにも、法人の合併・事業譲渡・社会福祉事業の再編統合なども視野に入れていかなければなりません。 社会福祉事業を経営するあなたの事業の悩み、問題、課題の最適解を一緒に考えていきましょう。 趣味は神社仏閣巡り 大宮の氷川神社、成田山新勝寺には長年通い続けています。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。