
「財産処分に関する論点・方向性」が盛り込まれました。
これまで多くの方に読まれている「財産処分」に関する記事ですが、ついに国の政策検討の場でもこのテーマが取り上げられたということですね。
そこで今回の記事では、この検討会でどのような議論があり、今後の検討の方向性としてどんなことが述べられているのか、ポイントをわかりやすく解説し、みなさまにシェアしたいと思います。
▼財産処分についての記事は以下の一覧からお読みいただけます。
資料:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001507364.pdf
(出典:厚生労働省老健局「2040年に向けたサービス提供体制等の在り方」検討会(第8回)資料について)
補助金返納ルール、見直しを検討へ?

2025年6月23日に「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会が開催され、障害福祉・こども子育ての議論を踏まえ、少し踏み込んだ内容の検討の方向性が示されました。
大きなトピックとして、
1.「転用・貸付・廃止に係る補助金の国庫返納に関する規制について、一定の条件を付した上で緩和する仕組みの検討が必要」
2.「元々の補助金の目的範囲外での返還を求められることのないよう、地域密着の施設から広域型施設への転用、10年以内の一部転用の緩和等を行うなど、柔軟な制度的な枠組みの検討が必要」
の2点が記載されました。
具体的には以下のような検討の方向性が示されています。
『○ 中山間・人口減少地域においてサービス需要が減少する中、施設等の整備について今後その機能を柔軟に変更していく必要もあり、地域におけるサービス維持・確保の観点も含めて地域の関係者の理解も得つつ、財産取得から10年未満の場合に関して、
・ 一定の条件下における全部転用(補助対象事業を継続した上で一部転用する等の場合を除く。)
・ 一定の条件下における廃止(計画的な統廃合に伴う一定の機能を維持した上での廃止に限る。)等
について、補助金の国庫返納を不要とすることなど、より柔軟な仕組みを検討する必要。さらにその際、高齢者施設から障害者施設・児童福祉施設等への転用や、複数施設の統合といった異なる分野も含めた横断的な検討が必要。』
さらに、社会福祉法人が解散する際の残余財産はこれまで「国庫帰属」のみとなっていましたが、地域において必要な福祉サービスに活用するなど、自治体や地域の関係者でより有効活用を図っていくことが可能となるため、その施設等の財産を「自治体」に帰属させることも検討することも示されています。
財産処分における「返納ルール」が、縮小も含めた事業展開の重荷となる実態
実際、私も2024年前半からのセミナー等で、「事業展開や統廃合を行う上で、財産処分ルールが今後大きなネックになる」と繰り返しお伝えしてきました。
現行制度では、例えば急激な出生数の減少などで保育施設を廃止せざるを得ない場合(事業所の責任でない場合)でも、補助金返納を求められていました。

しかし、今後の日本社会では、少子化・人口減少が進む地域では、福祉サービスそのものの維持が難しくなるという状況が確実に増えていくと感じています。
実際に「新しい地方経済・生活環境創生会議」でも、この点を見越した議論が始まっています。
「社会福祉事業は続けていくもの」「拡大していくもの」という前提の制度設計から、「縮小・統廃合・再編も前提にした制度設計」へと転換することがますます重要になってくると感じています。
今後の制度の見直しに向けた動き
厚労省の本検討会での、財産処分関連で重要な論点を、以下にピックアップしました。
課題と論点に対する構成員の意見・ヒアリング内容を踏まえた検討の方向性等(案)
<検討の方向性(案)>
(施設の転用等)○ 現行制度では、社会福祉法人が社会福祉事業を行うにあたって、一部例外はあるものの、原則として土地・建物の所有権を有する必要がある。加えて、社会福祉法人、医療法人等が施設等の財産を有している場合で、取得の際に国庫補助がなされている場合においては、転用・貸付の後に社会福祉事業を行う場合であっても、財産取得から10年未満の転用の場合(補助対象事業を継続した上で一部転用する等の場合を除く。)等には、原則補助金の国庫返納が必要となっているところ。
○ 特に中山間・人口減少地域において不可欠な福祉サービスを維持するために、既存の施設等も有効活用する観点から、新たなサービス主体による社会福祉事業の参入とそれを可能とする貸付をしやすくするとともに、地域の実情に応じた施設等の柔軟な活用を可能とするために、上記の不動産の所有に係る要件や転用・貸付・廃止に係る補助金の国庫返納に関する規制について、一定の条件を付した上で緩和する仕組みの検討が必要。
○ サービス需要が減少する中、施設等の整備について今後その機能を柔軟に変更していく必要。介護保険施設の一部で障害福祉サービス、保育等を行う場合に、元々の補助金の目的範囲外での返還を求められることのないよう、地域密着の施設から広域型施設への転用、10年以内の一部転用の緩和等を行うなど、柔軟な制度的な枠組みの検討が必要。
○ これらの検討に当たって、具体的には、例えば、中山間・人口減少地域において不可欠な福祉サービスを維持するために必要な場合には、社会福祉連携推進法人制度を活用しながら、土地・建物について貸与を受けた新たなサービス主体が、当該地域への社会福祉事業への参入を可能とすることが考えられる。
○ 中山間・人口減少地域においてサービス需要が減少する中、施設等の整備について今後その機能を柔軟に変更していく必要もあり、地域におけるサービス維持・確保の観点も含めて地域の関係者の理解も得つつ、財産取得から10年未満の場合に関して、
・ 一定の条件下における全部転用(補助対象事業を継続した上で一部転用する等の場合を除く。)、
・ 一定の条件下における廃止(計画的な統廃合に伴う一定の機能を維持した上での廃止に限る。)等
について、補助金の国庫返納を不要とすることなど、より柔軟な仕組みを検討する必要。
その際、高齢者施設から障害者施設・児童福祉施設等への転用や、複数施設の統合といった異なる分野も含めた横断的な検討が必要。
○ 特別養護老人ホームなど、地域密着の施設から広域型施設への転用について、補助金の国庫返納が不要という点、ルールを明確化の上、その運用を図るべき。
○ 社会福祉法人がやむを得ず解散する場合に、その施設等を自治体に帰属させることで、地域において必要な福祉サービスに活用するなど、自治体や地域の関係者でより有効活用を図っていくことが可能となるため、必要な検討を行っていく必要
こうした方針が実現すれば、地域の実情に応じた福祉サービスの継続・再編がやりやすくなり、今の制度では難しかった「施設の有効活用」が進む可能性があります。
まとめ

今回の検討会の議事録を読んでいても、構成員の皆さんが同様の問題意識を強く持っておられることが伝わってきました。
財産処分という難しいテーマを、正面から取り上げ、しっかり議論いただいたことは非常に意義深いことだと思います。
今後、この方向性が実際の政策にどう反映されていくのか、引き続き注目していきたいと思います。
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【社会福祉法人愛生会 理事長】趣味は神社仏閣巡りです。大宮の氷川神社と成田山新勝寺はずっと通い続けています。これからの社会福祉法人経営の悩み、問題、課題を一緒に考えていきましょう。
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