
当サイトでは、“今後の社会福祉法人や社会福祉事業の事業継続・建て替えなどにあたって、財産処分のことを取り上げ、このことをしっかり念頭におかなければならない”ということを言ってきました。
▼財産処分に関する記事一覧
▼廃業後の流れに関する記事
また、以下の記事▼でも解説したように、「2040~検討会の取りまとめ」に、財産処分に関する論点が盛り込まれたということもお伝えしました。
そして今回、「2040年のサービス提供体制等のあり方」に関する検討会の取りまとめ案を受けた形で、
『人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築』
にて、それら財産処分のことについて、「既存施設の有効活用」ということでさらに具体案が示されていますので、資料全体も含めて、わかりやすく解説します。
人口減少、地域格差、人材不足、そして財政面の制約など、社会福祉法人を取り巻く環境は大きく変化しています。
こうした背景のもと、介護保険部会の協議資料として示されたのが、『人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制のあり方』です。
今回はこの資料の中から、
論点①:地域の類型の考え方
論点②:地域の実情に応じたサービス提供体制の維持のための仕組み
論点③:地域の実情に応じた包括的な評価の仕組み
の3点にフォーカスを当てて解説します。

それぞれがどう関係しているのか、そして法人としてどのように捉えればいいのかを一緒に見ていきましょう。
地域の類型の考え方(論点①)
地域によって「あり方」は異なる
厚労省は、サービス提供体制を検討するうえで、
一律の基準ではなく「地域の類型」に応じて考える必要があるとしています。
全国を「中山間・人口減少地域」、「大都市部」、「一般市等」と主に3つの地域に分類して、テクノロジー等も活用し、その地域の状況に応じたサービス提供体制や支援体制を構築していくことが重要である。
(出典:厚労省社会保障審議会介護保険部会2025年9月8日資料
『人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築』p.3)

これは、都市部と地方、さらに地方でも中山間地域と県庁所在地等でも人口動態や需要の状況が全く異なることが前提にあります。
たとえば都市部では、民間の介護事業所や他の福祉資源が多く存在します。
一方で中山間地や離島では、事業者自体が少なく、社会福祉法人が地域インフラとしての役割を果たしています。
この違いを踏まえて、
・どのような機能を、どこに残すべきか?
・どこに公的な支援が必要か?
といった「見取り図」を描くための基準が「地域類型」だといえます。
サービスを維持する仕組みの構築(論点②)

なぜ仕組みが必要なのか?
資料では、少子高齢化や人口減少により「将来的に施設運営が困難になるケース」があることを前提に、以下のような課題が示されています。
⚪︎介護事業所が様々なサービスを提供するに当たっては、それぞれの配置基準等を満たす必要がある。中山間・人口減少地域においては、生産年齢人口の減少が全国に比して進んでおり、専門職等の人材確保が困難な中、人員基準を満たすことが困難となり、必要なサービス提供体制の維持・確保が難しくなっているケースが生じている。
⚪︎地域の介護事業者や関係職種間で連携を行いながら、地域の高齢者が必要なサービスを受けられる体制を引き続き維持・確保できるよう、必要な対応を検討することが必要。
(出典:厚労省社会保障審議会介護保険部会2025年9月8日資料
『人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築』p.5)
地域住民に必要な支援をどう確保し続けるかに焦点が置かれています。
それに対し、
⚪︎中山間・人口減少地域において、地域の高齢者が必要なサービスを受けられる体制を引き続き維持・確保できるよう、特例介護サービスの枠組みを拡張することにより、必要な対応を行うことが考えられないか。
⚪︎こうした枠組みについては、現行の居宅サービス等以外にも、実施対象を広げることが考えられないか。
などの提案が示されています。

『人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築』p.6)
協働・連携による体制確保
注目すべきは、「人口減少や需要変化によって、一施設単体での事業継続は難しいのではないか、サービス間や事業所間での連携(人員の融通や要件の緩和)を模索することができないか」という視点が入っていることです。
サービスの質の確保や、職員の負担等にも配慮しつつ、サービス・事業所間での連携等を前提に、管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件の緩和等を行うことが考えられないか。
(出典:厚労省社会保障審議会介護保険部会2025年9月8日資料
『人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築』p.6)
このように、
・他サービスとの連携(常勤・専従要件の緩和等含)
など、広域的・協働的な枠組みが求められていることがわかります。
地域の実情に応じた包括的な評価の仕組み(論点③)

財務だけでなく「地域での必要性」を評価
これまで報酬の仕組みは、一部を除いては提供回数等に応じた、出来高報酬がほとんどでありました。
しかし、この資料では次のように言及されています。
安定的な経営を行うための報酬の仕組みとして、例えば、訪問介護について、現行のサービス提供回数に応じた出来高報酬と利用回数に左右されない月単位の定額報酬(包括的な評価の仕組み)を選択可能とするような枠組みを設けることが考えられないか。
(出典:厚労省社会保障審議会介護保険部会2025年9月8日資料
『人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築』p.7)
現在、多くの施設では、出来高報酬(=利用回数 × 単価)が採用されています。
これには以下のようなメリット・デメリットがあります。
● 出来高報酬のメリット
・利用回数や時間に応じた報酬で、納得感がある。
・軽度な利用者からでも報酬が発生するため、そうした利用者を受け入れるインセンティブが働きやすい。
● 出来高報酬のデメリット
・利用者数や利用状況に大きく左右され、収入が不安定。
・冬季など、地域特性によっては大幅に減収となることも。
・移動が多い地域では、訪問制限やキャンセルの影響が大きい。
・時間や回数が少ない利用者に対して、サービス提供の動機が弱まる。
これによる主なメリットは以下の通りです。
・利用者数に応じて安定収入が見込めるため、経営の予測が立てやすい。
・地域事情(移動距離、キャンセル等)を加味した柔軟な報酬設定が可能。
・軽度利用者を受け入れても収入が確保できるため、支援の幅が広がる。
・常勤化が進み、安定的な人材確保にもつながる。
・利用者の状況変化に対応しやすく、安心してサービス提供が可能になる。
まとめ

今回は、厚労省老健局の資料『人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築』を読み解き、以下3つのポイントを解説しました。
・地域ごとの「類型化」によって、現状のサービス提供の把握がしやすくなること
・閉鎖や縮小を見すえ、地域で支える仕組みを事前に考える必要があること
・利用者数や季節に左右されにくい「包括的評価制度」への移行で、安定経営を目指せること
制度や体制を柔軟に見直すことで、住民にも事業者にもやさしい福祉サービスが広がっていくことが期待されます。
ぜひ、資料をもとに自施設の体制を見直す際の参考にしてみてください。
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