『事前調査』|社会福祉法人の事業譲渡のための手続き その④

本記事では、厚労省「合併・事業譲渡等マニュアル」をもとに、**社会福祉法人が事業譲渡や合併を進める際に行う「事前調査」について解説します。

▼前ステップである「調査・検討の準備」については以下の記事をお読みください。

なぜ事前調査が必要なの?

事前調査は、事業譲渡を成功させるために欠かせない重要なステップで、いわゆるデゥーデリジェンス(以下、DD)とも言います。これを怠ると、後から思わぬリスクや問題が発覚し、法人運営に大きな影響を及ぼす可能性があります。

事前調査をする目的

①財務状況や運営形態を正確に把握するため
譲渡・合併する事業や法人の全体像を理解しないと、後のトラブルに繋がるリスクがあります。

②リスクや課題を事前に洗い出すため
問題点を把握し、トラブルを未然に防ぐことで、スムーズな譲渡手続きが可能になります。

③効率的な手続きの準備をするため
必要な情報を集めることで、計画が立てやすくなります。

社福経営者Aさん

事前調査って、具体的にはどんなことを調べればいいんでしょうか?



むらき

財務や人件費、運営形態など、後々の問題になりそうなポイントをしっかり確認しておくことが大事です。それでは次に具体的な項目を解説しますね!

事前調査の実施事項

事前調査では、以下の項目を中心に調べていきます。

①財務諸表の開示情報をチェック

POINT譲渡・合併対象法人の財務状況を確認する際は、「社会福祉法人の財務諸表等電子開示システム」が便利です。

このシステムで、法人の財務諸表や情報を簡単に確認できます。

ただし、この開示情報では見つかっていない誤謬や過誤があるかもしれないので、専門家によるDDを実施し、他の資料や現場の状況と照らし合わせながら精査しましょう。

一般的には財務DDは公認会計士等が、法務DDは弁護士等が、労務DDは社会保険労務士等が担当します。


▼詳しい活用方法については、以下の記事をご覧ください。
(後日別記事を公開します)

むらき

開示情報だけでは不十分な場合もあるので、それぞれの専門家によって各種帳票関係や実地での確認も合わせて進めるのがベストです!


財務状況の確認

譲受する事業の計算書類も含めて手に入れ、問題がないかやリスクがありそうなポイントをしっかりチェックしましょう。特に以下の点を重点的に確認してください!

POINT・過去数年間の収支報告
・資産や負債の状況
・将来的なリスク要因となり得る項目

専門家への調査依頼

財務状況の調査には、社会福祉法人会計基準や関係法令に詳しい弁護士や公認会計士の協力が不可欠です。
専門家の力を借りることで、リスクを未然に防ぎ、精度の高い調査が行えます。
社福経営者Aさん

専門家に依頼するメリットはなんですか?



むらき

公認会計士や弁護士など専門家のよるDDを行うことによって、さまざまなリスクに備えることができます。また係争案件が譲渡後に露見するようなことがあってはいけませんし、実は帳票と実態が乖離していたなんてことも防ぐことができます。費用はかかりますが、そういったところからも専門家によるDDは必要だと考えています!

人件費関連の確認

人件費は法人運営の中でも大きなコストとなる部分です。
以下の点をチェックしましょう!

POINT・職員の給与体系や手当の内容
・今後の人件費増加リスク
・職員処遇の統一の必要性

運営形態の確認

POINT運営形態については、第一種社会福祉事業の場合、都道府県や市町村の意向や要望を十分に考慮する必要があります。


そのため自治体と事前に協議し、合意形成を進めることが重要です。

社福経営者Aさん

自治体との協議は、どの段階で行うべきですか?



むらき

事前調査の初期段階から相談を始めておくと、後の手続きがスムーズになりますよ!

収支シミュレーション

譲渡・合併後の法人運営が健全に継続できるか、収支シミュレーションを作成して以下の点を確認しましょう。

POINT・譲渡後の収入と支出のバランスを試算
・不足が予想される場合の対策を検討
Tips特に運営形態を変えたり、報酬を見直す予定がある場合は、収支に大きな変化が出る可能性があります。

そういった要素もしっかり考慮して、収支シミュレーションを作りましょう!

その他重要なポイント

事前調査では、以下の点も忘れずに確認しましょう。

所轄庁への事前相談・協議

所轄庁との事前相談を通じて、必要な手続きや書類を確認しましょう。

国庫補助事業で取得した財産の処分

国庫補助事業で取得した建物などの財産を譲渡する場合、「財産処分」の手続きが必要です。

▼「財産処分」については以下のページに記事をまとめてありますのでお読みください^^



借入債務の手続き
POINT福祉医療機構や民間金融機関からの借入がある場合、抵当権が設定されていることが多いです。解除手続きや条件についても確認しましょう。
社福経営者Aさん

調査する項目が多いですね…。汗  まずどこから手を付ければいいですか?



むらき

まずは財務状況の確認から始めましょう。何度も申し上げているとおり、公認会計士などの専門家の力を借りながら進めるのがおすすめです!

事業譲渡等の支払対価の決定プロセスの留意点

譲受法人が事業譲渡の支払金額を決めるには、事業の正しい評価が欠かせません。
そのために、いろいろな視点からしっかりと調査・分析を行う必要があります。

▼こちらについては別記事で詳しく解説しています。
(後日公開予定)

まとめ

この記事では、社会福祉法人の事業譲渡における事前調査の意義と具体的な進め方を解説しました。

以下が今回のポイントです。

POINT

①具体的な調査内容: 財務状況、人件費、運営形態、収支シミュレーションなど。

②専門家の活用: 弁護士や会計士に依頼することで、調査の精度を上げる。

③その他重要事項: 所轄庁との相談、借入債務の確認、国庫補助財産の手続き。

事前調査をしっかり行うことで、事業譲渡や合併をスムーズに進めることができますよ。

今回の記事が参考になれば幸いです!

村木 宏成

福祉の世界にたずさわり、さまざまな種別の福祉事業に取り組んできました。 生産年齢人口の急減に伴う「供給制約」、出生数減少に伴う保育需要の減少、後期高齢者数のピークアウトに伴う「需要消失」、そうした課題が、それぞれの地域ごとに並列していく時代がきています。これからの社会福祉法人は、それぞれの地域での福祉サービスを継続していくためにも、法人の合併・事業譲渡・社会福祉事業の再編統合なども視野に入れていかなければなりません。 社会福祉事業を経営するあなたの事業の悩み、問題、課題の最適解を一緒に考えていきましょう。 趣味は神社仏閣巡り 大宮の氷川神社、成田山新勝寺には長年通い続けています。

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