

事業譲渡って、実際のところどれくらいの法人が経験してるんですか?

良い質問ですね!実は厚労省の調査に基づくアンケートデータがあるんです。令和2年にとられたアンケートで少し古いものにはなりますが、今日はそれを元に、現場のリアルを一緒に見ていきましょう。
事業譲渡に不安を感じている方のヒントになればうれしいです!
「譲渡」「譲受」の背景
社会福祉法人の「事業譲渡」「事業譲受」は、人口減少・人材不足などの影響で、ますます現実的な選択肢となっています。
このアンケート調査では、以下のような実態が明らかになっています。

⚫︎事業譲渡の経験がある法人:14.0%
⚫︎事業譲受の経験がある法人:81.4%
⚫︎どちらも経験した法人:4.7%

ほとんどが“譲受”側なんですね!ということは、引き継ぎたいと思ってる法人が多いってことでしょうか?

そうですね!実際は、譲渡する側の方が圧倒的に少ないようです。
事業譲渡の実態
ここでは、アンケートから「譲渡する側」の背景を読み取ってみましょう!
譲渡側:譲渡した相手法人は?

⚫︎社会福祉法人:75.0%
⚫︎一般社団・財団法人:12.5%
⚫︎株式会社:12.5%
同じ社会福祉法人への譲渡が多いのは、制度面の整合性や公益性の維持といった観点から、同じ“福祉法人同士”のほうがスムーズに引き継ぎやすいという事情があります。
特に第一種社会福祉事業などは、譲渡できる先が限られているので、結果的に「同業種間での引継ぎ」が中心になるのは自然な流れと言えますね。
譲渡側:事業譲渡の相手方はどうやって見つけた?

⚫︎役職員からの打診:37.5%
⚫︎自治体からの紹介・その他:25.0%ずつ
人脈や行政を通じたマッチングも鍵となっているようです。
とくに福祉業界は、日頃のつながりや関係性が、事業譲渡のきっかけになることが多いのでは、と思います。
譲渡側:譲渡を決めた理由

⚫︎「事業の集中のため」:87.5%
⚫︎「人財不足のため」「財務状態の改善のため」:それぞれ25.0%
限られたリソースをコア事業に集中する動きが見られます。
譲渡側:対価について

⚫︎有償:50.0%
⚫︎無償:50.0%
有償・無償の割合がちょうど半々というのは興味深いですね。
状況に応じて柔軟に対応されている印象です。
譲渡側:基本財産の譲渡

⚫︎あり:75.0%
⚫︎なし:25.0%
譲渡側:定款変更の有無

⚫︎あり:62.5%
⚫︎なし:37.5%
定款変更が必要になるケースも半数以上にのぼっていますね。

所轄庁と相談して進めていきましょう!
譲渡側:承認のために行った手続きは?(複数回答可)

⚫︎理事会の承認:100%
⚫︎評議員会の承認、所轄庁の承認:各62.5%

やっぱり、理事会の承認は必須なんですね!

そうですね。さらに評議員会や所轄庁の承認も、過半数のケースで必要になっています。関係者との丁寧な合意形成がスムーズな手続きを進めるカギになりそうです。
事業譲受の実態
つづいて、「譲受する側」の背景をアンケートから読み取っていきましょう!
譲受側:相手法人は?

⚫︎自治体:32.4%
⚫︎社会福祉法人:29.7%
⚫︎NPO法人:18.9%
譲受元として最も多かったのは自治体ですね。
社会福祉法人やNPO法人からの譲受も一定数あり、さまざまな主体から事業が引き継がれていることが分かります。
行政からの委託終了や再編に伴うケースも多いのかもしれません。
譲受側:相手方の認識方法は?

⚫︎相手方から直接連絡があった:37.8%
⚫︎役職員を通じての打診:27.0%
⚫︎自治体からの紹介:27.0%
事業譲受の出会いは「待つ」ことより「つなぐ」ことがポイントかもしれませんね。
譲受側:譲受を決めた理由

⚫︎事業の多角化のため:43.2%
⚫︎事業救済のため:40.5%
どちらの視点も、社会福祉法人らしい地域への責任感がにじんでいますね。
譲受側:事業譲受の対価

⚫︎無償:78.4%
⚫︎有償:16.2%
経済的な合理性よりも、「地域の福祉を守る」という使命感が色濃く反映された結果と言えそうですね。
譲受側:基本財産の譲受

譲受側:定款変更の有無

⚫︎あり:86.5%
⚫︎なし:10.8%
譲受の際には、多くの法人で定款の変更が必要になっているようです。
事業内容や基本財産の追加など、法人の根幹に関わる変更が生じるため、事前の準備と所轄庁との調整が欠かせません。
譲受側:譲受のための手続き

⚫︎理事会:97.3%
⚫︎所轄庁の承認(定款変更など):86.5%
⚫︎評議員会:62.2%
理事会や所轄庁への承認手続きは、ほぼ必須と言えますね。
譲受に関する意思決定や定款変更は法人の運営基盤に関わるため、しっかりとしたプロセスを踏む必要があります。
事業譲渡・譲受で直面した課題とその解決策
課題
アンケートでは、事業譲渡・事業譲受の困難さや課題について以下のような回答がありました。

⚫︎職員の処遇・雇用調整(最も多い)
⚫︎全体の進め方・スケジュール調整
やっぱり“人”に関わる部分が一番の課題のようですね。
スケジュールや組織の統合以上に、現場で働く職員さんの不安をどう取り除くかが鍵になってきます。
解決策
上記の課題の解決策として、以下のような回答がありました。(一部抜粋)
⚫︎「行政と何度も協議した」
⚫︎「職員の不利益が出ないように配慮した」
⚫︎「司法書士・社労士と連携」
⚫︎「専任職員や準備室を設置」

“誰かと連携する”という姿勢が共通して見られますね。孤軍奮闘しないことが、この困難を乗り越えるコツかもしれませんね。
譲渡・譲受後に発生した課題は?

アンケートによると、譲渡・譲受後に発生した課題として、
⚫︎老朽化施設の修繕
⚫︎職員の処遇・意識の違い
がありました。
“譲受したらすぐ安定”というわけではなく、譲り受けた施設の“その後”も見越しておくことが大事ですね。
特に建物の状態や、人材面でのミスマッチには早めの対応が必要です。
事業譲渡・事業譲受を成功させるポイント
事業譲渡や譲受がうまくいった法人に共通していたのは、次のような工夫や姿勢でした。
(アンケートより一部抜粋)
⚫︎相手法人との信頼関係がすでにできていた
⚫︎丁寧な説明や面談を通じて、職員や関係者の不安を払拭
⚫︎地域住民や保護者、利用者への理解を得るための対話を重視
⚫︎これまでの運営方針をできるだけ尊重するなど、継続性を意識した対応

事業譲渡や譲受って、書類や建物だけの話じゃないんですね!

そうですね!人や文化も一緒に引き継ぐという意識が大切ですね^^
手引きの認知度は?
「事業譲渡の手引き」について、調査では以下のような結果でした。
⚫︎手引きを知っていた:9.3%
⚫︎知らなかった:74.4%
⚫︎活用できた人の割合:67%
今後の施策や取組への意見として、「もっとわかりやすくしてほしい」「救済措置(国庫補助等)を手厚くして欲しい」などの声もありました。
まとめ

今回は、「社会福祉法人における事業譲渡・譲受の実態」について、アンケートデータから読み解いてきました。
⚫︎譲受の経験者が8割以上と、譲渡よりも譲受のほうが多い傾向にあります。
⚫︎譲渡先・譲受元ともに、社会福祉法人や自治体との関係性が中心となっていました。
⚫︎無償での譲渡・譲受が多いのも福祉業界らしい特徴が見えました。
⚫︎最も大きな課題は「職員の処遇調整や雇用確保」。対話や配慮が欠かせません。
⚫︎一方で、合意形成や丁寧な説明、継続性への配慮が成功のカギとなっていることも明らかに。
福祉法人の事業承継は、法人の未来だけでなく、地域の福祉ニーズにも大きく関わります。
「譲る」「受ける」どちらの立場でも、準備と対話がスムーズな承継のカギになります。
⚫︎出典:社会福祉法人の事業拡大に関する調査研究事業報告書(PDF)
▶︎前回の記事:①社会福祉法人の合併にまつわるリアルな声
▶︎この記事の続き:③合併・譲渡 未経験法人のリアルな声
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【社会福祉法人愛生会 理事長】趣味は神社仏閣巡りです。大宮の氷川神社と成田山新勝寺はずっと通い続けています。これからの社会福祉法人経営の悩み、問題、課題を一緒に考えていきましょう。

再び「スラムダンク」にはまっています。「最後まであきらめない」気持ちが仕事に向き合う姿勢と共感するからでしょうか。休日には「乗り鉄」の子供と一緒に関東近郊に「電車の旅」に出ています。車窓を見ながら本を読む時間が楽しみです。

大手会計事務所でM&A、組織再編など幅広い案件に携わってきました。地元秋田に戻ってからは、社会福祉法人監査など社会福祉事業に関する業務も手掛けております。皆様の課題解決の一助となれれば幸いです。週末は、小学生の息子と日帰り温泉巡りをしています。
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